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4.66点(レビュー数:3人)

作者若杉公徳

巻数6巻 (完結)

連載誌ヤングアニマル:2011年~ / 白泉社

更新時刻 2012-04-28 22:12:38

あらすじ 1999年7の月。ノストラダムスが予言したこの時、世は荒廃し、秩序は乱れ、無法が支配する世界が訪れる。その時に備え、来るべき世紀末に人類を救うべく、己を鍛え上げる男たちがいた。ある日、強力無比な無戒殺風拳 獅闘流(むかいさっぷうけん しとうりゅう)を会得した弟子たちを集め、老師は言った。 「解散」 時は2011年。世界滅亡の時は一向に訪れる様子はなかった。これは時代に全く必要とされず、世界の救世主になれなかった男の物語である。

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この漫画のレビュー

6点 景清さん

 30年前の誕生以来、現在もなお読み継がれ新たなファンも獲得している名作『北斗の拳』。この漫画の魅力の一つに、主人公ケンシロウの強さとストイックさを兼ね備えたヒーローとしての完成度の高さがあった事は言うまでもない。そこには確かに男性主人公の一つの理想形が描かれていたが、読者の多くはある時期からケンシロウに対して一つの疑問を抱くこととなる。

「結局ケンシロウは恋人ユリアと男女の契を交わしたんだろうか?」

 二人の間に子供はいなかったし、死の病に侵され衰弱したユリアの体をケンシロウが激しく求めるとも思えない。また、ケンシロウのあのストイックな性格からしてユリアの没後も他の女性とヨロしくやるような雰囲気は薄い。もしかして、ケンシロウって……。
ケンシロウや梶原一騎作品の主人公達のようなストイックヒーロー型から、近年のラノベなどによくでてくる鈍感純情優柔不断型まで、漫画における男性主人公にはしばしば童貞性が重要な要素となる事がある。「007」のジェームズ・ボンド及びそれらの影響下にあるゴルゴ13のような多くの美女と浮名を流す精力絶倫系主人公が男性(主に大人)の願望の投影として人気を博す一方で、ストイックで純情な愛を重視する童貞力系主人公もやはり男性(主に少年)の心の琴線に触れるのだ。ただし、それらが格好良く見えるのは世紀末の荒野やスポーツのリング上だからこそであり、もしこの平和な現代日本の日常に放り込まれようものなら。


前置きは長くなったが、今回紹介する『KAPPEI』は、そんな世紀末救世主となりそこねたヒーロー候補生が現代東京のキャンパスライフに乱入して生まれて初めての恋煩いに身悶えするという、かなり痛々しいシチュエーションギャグで笑わせてくれる作品である。作者は『デトロイト・メタル・シティ』で有名な若杉公徳。思えばDMCも童貞力にあふれた痛々しさが存分に描かれた作品だった。

 1999年、世界は結局核の炎に包まれる事無く無事世紀末は乗り越えられた。2012年人類滅亡説なんてものもあるにはあるがそれもどうやらかなり怪しい。来る終末の危機に備え殺人拳「無戒殺風拳」を世俗を捨てた絶海の孤島で磨き続けてきた男たちはこうして役目を失い、その一員であった主人公の勝平は一人虚しく東京へと出現する。別に「み…水……」と飢えてもいなければ、無法を尽くす悪のモヒカン兵士もいない現代の東京へ。
「ヒーローはいるが悪のいないアクション映画の主人公は 何をするべきと思うか?」
 そんな空虚を抱える勝平の心の隙間を埋めたのは偶然暴漢から救った大学生の男に誘われた花見会場で出会った一人の女性だった。女性という存在を知らず人並みの青春を送ったことのない勝平に芽生えた、得体のしれない感情の正体とは?


 正直に言って『北斗の拳』のパロディをはじめプロットなど既視感のある設定ばかりであり、また作者の味といえばそれまでだが北斗パロディをやるには画力が足らなさすぎる感があるが、やはり作者の才能のゆえだろうか随所随所にかなり破壊力の高いギャグが仕込まれており、コメディ漫画として充分面白い出来に仕上がっている。特に勝平が友人となった大学生の部屋で発見した『ふたりエッチ』を夜中にこそこそ盗み読みするシーンなどシチュエーションギャグとして身悶えするような出来栄えだったし、大学の飲みサークルのあのグダグダした雰囲気、生まれて初めての合コンでの立ち居振る舞いがわからぬゆえの暴走、気になる女子が見知らぬ男と一緒に居た時のあの感情…、これらの描写の数々に痛々しい笑いと、同時に(多くの男性にとって)身につまされる何かが感じられる。無戒殺風拳伝承者同士での死闘が描かれることもあるがそれにしたって会話が「お前の好きな女はブスだ」「ブスじゃない」とか小学生レベルの言い争いだったりするのもなんとも可笑しい。

 前述の平和な世界のヒーローの在り方についての勝平の問いかけに対し彼の想い人の山瀬ハルは「ギャグになっちゃうよ」とあっけらかんと答え、そしてこうも続ける。

「だから次は自分が幸せになる番じゃない。」

 ケンシロウは生涯を戦いの荒野に捧げた。梶原一騎作品の主人公達の多くは寂しく舞台を去っていった。果たして勝平は平和なこの時代にヒーローとして活躍できるのか、そして、山瀬ハルと結ばれる事はできるのだろうか?非常に先の気になる作品である。

 1巻後半にはなにか北斗のシンみたいなライバルが登場した。この調子で今後も重度のシスコンをこじらせたレイもどき、不細工な己の顔を憎む余りイケメンに憎悪を向けるジャギもどき、自分が好きすぎてホモに走ったユダもどき、失恋の悲しさから「愛などいらぬ」なサウザーもどき、そして勝平とヒロインを奪い合う一方でちゃっかり童貞も捨ててるラオウもどきなどが次々と登場すればよい気がせんこともないある…アルナイ……。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-04-29 22:10:12] [修正:2012-04-29 22:10:59]

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