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ヴィリ
作者:山岸凉子

雑誌:ダ・ヴィンチ

 レビュー全文  

6点  :booさん 

ヴィリは舞姫(テレプシコーラ)の第一部と第二部のつなぎとして描かれた。テレプシコーラに隠れて今一目立たないけどこれも良い作品。

東山礼奈は43歳になるが今でも日本でトップクラスのバレエダンサー。高校生の娘を持ち、バレエ団を経営する身でもある。
一時休養していた彼女であったが復帰作としてジゼルの全幕を発表することに。
バレエ団のパトロンも現れ、恋の予感も芽生えてと万事順調に思えた彼女であったが…。

「ヴィリ」とは結婚直前で亡くなった女性が精霊になったものということ。礼奈が踊る予定のジゼルにも登場する。
このタイトルから何となく内容とテーマが見えてくると思う。

テレプシコーラの第一部を見た人は分かると思うが、山岸涼子は構成がとても上手い。それは先が読めないのに後から読むと必然的だと感じられるということ。
先の展開へのきっかけというのはもちろんあるのだけど、山岸涼子の場合あまり伏線と言うのが似つかわしくない。それは勘違いであり見落としでもある。確かに提示されているものなのに、登場人物と一緒に読者まで間違ったりスルーしてしまうのだ。ゆえに事件は降って湧いたような気がするのだけど、確かに話はつながっているし、つながりがあるからこそ後悔が真実味を帯びる。

このヴィリでもそれは変わっていなくて、満たされた状態から奈落の底に落ちる話を山岸涼子は痛いほどに巧みに描く。
ジゼルというのはこの作品の解釈では、貴族の戯れの恋としてジゼルをもてあそんだアルブレヒトをヴィリとなったジゼルが許す物語だ。
作中で礼奈は彼を許せるジゼルを踊りたいと言う。愛とは許すことなのだと。

「許す」というのは一つのキーワードだろう。
辛い過去は許さないと、折り合いをつけないとその人自身を蝕んでしまう。どうしても折り合いがつかなくて鬼や化け物になってしまう童話や物語をどんなにたくさん思いつくことか。バットマンやジョーカーだって、過去を切り離せないからこそ異形の姿になってしまう。先に進めなくなってしまう。

ヴィリはそういう昔からある「許し」をモチーフにした話を現代的に分かりやすくリファインした作品と言えるだろう。許すことの意義が丁寧に描かれている。

定番だからこそ、山岸涼子の確かな実力が際立つ良い作品だった。
[ 2011-10-19 23:26:06]
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