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バットマン:キリング・ジョーク
作者:ブライアン・ボランド

雑誌:DC Comics

 レビュー全文  

7点  :columbo87さん 

 バットマンシリーズ最大のヴィランであるジョーカー。彼のオリジンを明かしたともいえる作品であり、バックボーン、苦悩の一端を掬い上げたものである。
 混沌と狂気の象徴として描かれるジョーカーだけに、こういった一種同情的な目線を与えられた作品というのはキャラクターを殺してしまいかねない危うさがある。非常にバランスが難しいところだが、そのあたりうまいこと小奇麗にまとめているのは流石ムーアといったところか。
 
 かくして再び脱獄を果たしたジョーカーによって、いつものように怖気の走る凶行が繰り広げられる。バーバラは凶弾に倒れ、ゴードンは監禁され発狂寸前に追い込まれる。
 いつもならバットマンがジョーカーを追い詰め正義の名の下に勝利を収める。構図的には今回もそうだが、もはや2人のいたちごっこは限界に来ている、このままではどちらかの破滅があるのみだ。
 焦点が結ばれるのはここにおいてである、ジョーカーを生んだ原因であるバットマンに、「私がいれば力になれた」と言わせる。決して交わらない世界が存在感を帯びる。自らを正義と信じるバットマンの姿がより滑稽なものとして現れ、我々の価値観は揺らぎ始める。正気と狂気は誰が決めたもう物か、また正義は・・・

流石ヒーロー像の解体はお手の物のようで、バットマンとジョーカーの関係性を狂気という強烈な光で浮かび上がらせたのは見事である。それに留まらず作品そのものへの挑戦的視点も感じられる。
例えば「最近よく考えるんだ、お前と・・・私の事を。我々が最後にどうなるのかを」というバットマンの台詞は非常にメタな要素を孕んでいるように思える、連綿と続くシリーズを扱う作家達の言葉の代弁ともとらえることができるのではないか。
 そして読者に「君はどうしたい」と投げかけるラスト・・・このあたりの構成の緻密さ、さりげなさと大胆さは特筆に価するところである。それでいて伏線の過剰使用もせず、というか分量的にできなかったんだろうが、シンプルですっきりとしているのも好印象であった。

ジョーカーの魅力に迫った一本でもあるので、バットマンとの関係性がだいたいわかっていれば楽しんで読むことができるだろう。
 ブライアン・ボランドのアートも緊迫感と不気味さを引き立てる極上のものとなっており必見である。彩色の大幅な改定によって今見ても古臭さを感じさせない立体感が演出されている。
[ 2011-09-26 04:49:11]
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