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7.25点(レビュー数:4人)

作者新井英樹

巻数11巻 (完結)

連載誌ビッグコミックスペリオール:2007年~ / 小学館

更新時刻 2010-02-21 17:39:02

あらすじ 東京都内某所。認知症の母親を連れて歩く中年男の顔に、明日への希望など欠片もなかった。残り少ない所持金を頼りに、親子が向かう場所は富士山麓。その途中、立ち寄ったコンビニでトラブルに巻き込まれた彼らを一人のトラック運転手が救う。自分が人助けをする動機として、運転手が挙げたのは「染谷輝一」という名前だった…。

備考 『キーチ!』の続編。

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キーチVSのレビュー

点数別:
1件~ 4件を表示/全4 件

10点 朔太さん

前作に続く新井氏の衝撃の作品。
その昔、三島由紀夫という自害小説家がいたが、
対談させてみたいというのが、最初の感想だ。
圧倒的な熱量、強烈なパワーが紙面から読者の脳に伝播する。
これは、カリスマ物語でも、はっちゃけ熱闘青春物語でもない。
そこの基本のところを誤解している人がいるのは至極残念である。

前作、「キーチ」では、確かに人間キーチの成長と真っ当に
生きることの意味を問い続け、何故真っ当に生きる人間の
美しさを見せてくれた。
しかし、本作品ではキーチの体を借りて、日本という
得体の知れない国の息苦しさの正体を表現してくれた。
それは誰もが知ってて知らぬ顔をする薄汚い日本の側面だ。

漫画というエンターテイメントツールを利用して、社会に
対する強烈な新井氏個人の問題提議を世に発信していると信じたい。
なぜなら、エンターテイメントであるならば、不快感に
まみれた失敗作だからである。
苦々しい気持ちにさせる問題作品だからである。

新井氏の主張は、ただ一点。
「社会の問題に対して傍観者であることは罪である」だ。
作中、子供が描いた「世の中のしくみ」は極めてシンプルだ。
確かに大人は、全て了解していて、そのくせ訳知りに
その構造の中を泳いでいくことが、大人と嘘ぶく。
また恩恵にあずかれない階層の人間は、世の中で仕組まれる
ことにはことごとく何でも批判し、拒否する。
日本は、まさに前者と後者の階層で闘争をしている印象だ。
この点を指摘した知識人は、未だ見たことも聞いたこともない。

前者は言わずとも既存権力者側+既得権者+取り巻き(官僚、
企業、マスコミ・・)、後者は負け組。
この両者で階級闘争をしている。
困ったことに、後者の応援をしているふりをするマスコミ
(支持を受けるとスポンサーから資金が獲得できる)や
政治家(票が獲得できる)などの存在が、階級闘争の本質を
見失わせる。
いや、気づいたところで、本物の応援者はいないことに気づいて、
傍観者に成り下がる。

キーチは、日本には現れない後者の本物の応援者、カリスマ
として登場させた。
しかし、エセ民主主義、既得権者の中での何をどう抗って
いくのか、誰も分からない。
長期ビジョンにより、既得権者の下、力を蓄えることを志向
した甲斐の方法論が至極マトモに見えるが、新井氏とキーチは
それを否定し妨げる。
理詰めではなく(理詰めだと既得権者の土俵で戦うので、
よほどの戦略が必要だからね)、はっちゃけた熱情と仲間を
作って打破していくスタイルを選んだ。
しかし、成り行きとはいえ、現状打破が一種のテロ行為であるとは。

この方法を選択したキーチ、新井氏に残念な気持ちが消えな
かったのだが、作中、ある人物が語る言葉に気づかされた。
「敵にとんでもないどうしようもない力があって、デモしようが、抗議しようが何にも変わらねば、できることはテロしかないのじゃないか。」

すごいね。新井英樹氏は単なる激情型作家ではないんだ。
はてさて、漫画の虚構の世界と笑うなかれ。
世界を変えるには、何が正解なのかは分からないもの。
ただ、必要条件はこの漫画で学べる気がした。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2023-05-31 09:04:22] [修正:2023-05-31 09:04:22] [このレビューのURL]

0点 童貞小僧さん

前作に引き続き
この作者が考えるカリスマ像というのがあまりにも薄っぺらい。
すごく世間知らずな人が書いた漫画という印象。
その描かれているカリスマ性に納得ができないとひたすら退屈な漫画。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2017-10-27 22:58:48] [修正:2017-12-25 21:23:32] [このレビューのURL]

10点 masanovさん

[ネタバレあり]

何も考えていないアレな人は、この作品は読まないでしょう。
私が一番うれしかったのは、以前から感じていたがうまく言葉にならなかったことをイラストにまでしてわかりやすく説明してくれたことです。

それは
「日本はアメリカの属国である」 というところです。

 属国とはわかりやすく言うと、

「日本はアメリカのいいなりである。」
「日本はアメリカの子分である。」
「日本はアメリカの一部である。」

 ということです。
 今までも私は「アメリカは大戦後日本を植民地にせずに何をしてきたのか。計算高いアメリカが何もせずに日本をほっておくわけがない。」と感じてきましたが、日本の中学生が教科書にはアメリカにとって都合の悪いことは何一つ載っていないわけで。まずそのことに今更ながら驚きと戦慄を感じます。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-05-27 19:57:08] [修正:2013-05-27 19:57:08] [このレビューのURL]

9点 DEIMOSさん

神がかった少年を描いた物語「キーチ!」の続編。

キーチ青年は、前作から明確な成長を遂げ、神がかった存在感を獲得している。この成長に対する爽快感は、ドラゴンボール・ピッコロ大魔王編後の悟空の成長にも近いものを感じる。この平伏したくなるような爽快感は、「真っ当に生きた」御姿への畏怖と尊敬であることは自明であろう。

聖書のオマージュともいうべきこの?ノンジャンル?漫画は、私が生きる糧の一つとなっている。

政治や宗教や財力とは違う絶対的権力。
誰かに用意された既製パッケージ思想の妄信(=思考停止)への警鐘。
個人と対等な神。
個人の内面が大事などとエゴを唱えるセカイ系への反駁。

我々は、個々人の中のそれぞれの「真っ当な姿」を理想モデルとして、生きていくしかないんだ、という一つの訓示は、この腐りきった世の中で折れそうになった心が安易に低きに流れるのを阻止してくれる。
その個々人の「真っ当な姿(=キーチ)」は、多重な経験で紡がれる複合物でしかありえない。

生き方の模範を提示してくれた、この偉大なる書に感謝!

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-11-29 04:48:02] [修正:2009-11-29 04:55:57] [このレビューのURL]


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