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8点(レビュー数:2人)

作者吉田戦車

巻数1巻 (完結)

連載誌短編集:1992年~ / マガジンハウス

更新時刻 2010-12-27 10:31:54

あらすじ 四コマ漫画からSF、ナンセンス&ファンタジーまで……吉田戦車がぎゅぎゅっと詰まった1冊。小津安二郎的ほのぼのあり、ミクロの決死圏的SFワールドあり、ロシアのアニメから触発されて生まれたというファンタジーあり、OLマンガあり、と盛りだくさんの内容。著者の幅広い画力とテーマ性が堪能できる、貴重な一冊。

備考 短編集のため連載開始年には発行年を記載。

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タイヤのレビュー

点数別:
1件~ 2件を表示/全2 件

おそらくはじめて読んだのは小一くらいのことだったと思う。
もちろん当時は話の内容を理解していたとは思えないが
何度も読むうちに(見るうちに?)「肩守りが…」とか「ミクロ光線!」とか
口にするようになっていた。
そんなことを覚えているんだからやっぱりこの作品のシュールさというか、
キテレツさが印象的だったんだな。

氏のマンガは不条理ギャグマンガと題されていて奇妙なテーマが多いと見える
が、『カレー』『川辺の家族』『小春日和』『木人の店』などの作品は
どれも不条理ながらちゃんと家族のドラマになっていてもの悲しい気持ちにさえなる
こんな突飛な設定なのにこの読後感は何だ!っていうギャップが良い。
やっぱりセンスなのか…

あとは…蝶犬が見てみたい!
どこかの地域にこんな行事ありそうだもんなw

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-09-14 00:36:27] [修正:2011-09-14 00:36:27] [このレビューのURL]

8点 景清さん

 『伝染るんです』のヒット以来、いわゆる“不条理ギャグ漫画”の鬼才として広く注目されるようになった吉田戦車だが、しかし“不条理”のみで吉田戦車を評価する事は早計であり、またこの不条理ギャグというジャンルが何やら80年代末に何の前触れも無しに唐突に現れた突然変異種であるように捉えることも、無論正しくない。本作『タイヤ』は、吉田戦車のとびきり奇妙で可笑しく、そして背後に湛えたほのかな哀しみも感じ取れる短編集だ。ギャグの要素がほとんど存在しない話も少なからず収録されており、ギャグ漫画というよりは奇妙な寓話集のような趣がある。

 本作は家族を扱った作品が多いのが特徴だが、その読後感はいずれも一抹の哀しみが残る作品ばかりである。自動人形の木人を父親・友人代わりとし、誰にも頼らず生きようとする木人職人の少年の孤独な戦いと別れ、そして再会の物語『木人の店』、針仕事に励む母親(表情が描かれない)とそれを見守る少年の間に横たわる不穏な断層を描いた『肩守り』、崩壊寸前の家族に“団欒”を取り戻すためにカレーライスを作ろうとする少年の材料探しの奇妙な冒険『カレー』、小津安二郎の映画を思わせるホームドラマを何故か不定形の不気味な人工生物が演じる近未来SF家族ドラマ『小春日和』、そして東欧のアニメ映画のような素朴なタッチと構図で、川岸でイルカと会話をしながら日々の生活に倦んだ少女と、「ひょっとこ」になって帰ってきた兄とのやりきれない断絶を描ききった好編『川辺の家族』など、どれも奇妙で不条理な独特の雰囲気に満ちているが、その“不条理”は決して“何でもあり”とイコールではない。それら不条理の意匠をまとって描かれるものは生まれいづる悩み、別離の哀しみであり、不条理は万能のツールとしてそれらをハッピーな方向に好転させたりはしない。むしろ、この奇妙な雰囲気はそのまま我々が日々の孤独の中で湾曲させた近親者や世の中に対するねじくれた愛憎の投影そのものなのではないか、とさえ感じてしまう。

 更に、世間に背を向けて一人でモヤモヤを抱え続けていた若き日の作者の半自伝的な一作『ぶどう』にいたっては、ギャグはおろか遂に不条理ですらなくなる。世に鬱屈を抱えた少年のささやかな横紙破りとその無残な顛末を描いたわずか2ページあまりのこの小編は、ギャグも不条理的要素もいずれも希薄だが、この何とも言えないモヤモヤが後に“不条理”として開花していくであろう原風景的なものを感じさせる。思うに吉田戦車の不条理とは、テリー・ギリアムの往年の映画(『未来世紀ブラジル』とか)に通じる部分があるのかも知れない。

 このようにレビューすると、「悲惨で深刻な話ばっかりなのか」と敬遠されるかも知れないが、無論そんな事はない。『ヤクザでゴー』や『オフィスユー子』など、いつもの吉田戦車が堪能できる好ギャグ短編も完備しているし、犬を訓練して蝶を捕まえるという架空の奇習を描いた『ちょうちょうをとる』など、後の作品『ぷりぷり県』などで冴え渡る「ウソの風習」をバカバカしく活写してみせる名人芸もこの頃から既に健在だ。また、吉田作品の大きな魅力である素敵な造語センスの妙を味わえる機会も非常に多い。タイトルに『タイヤ』と付けるセンスといい、コーヒー牛乳を甘くさせるための儀式「ほめミルク」とか、東南アジアの生息する危険生物「ボルネオ電気蝶」とか、日本語の組み合わせによる奇妙な味わいを活かしきれるこのセンスは相変わらず見事。吉田戦車はカエル好きとしても有名だが、天変地異により地表の大半が水没し、人類が水生生物と融合して種を存続させた未来を舞台に、かえる族の王子の成長を描いた『かえる年代記』など、哀しみの中にも希望を感じ取れるファンタジー中編などもあり、作品のバラエティは広い。

 不条理も一日にしては成らず。様々な鬱屈や哀惜、広範なサブカルチャーの沃野を苗床にして吉田戦車は独自の世界を描き開いていったのだ。最近、新装版として再販もされているので、興味のある方も無い方もぜひご一読の程を。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-26 01:33:05] [修正:2011-02-26 23:56:12] [このレビューのURL]


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