「ハカタメンタイコ」さんのページ

総レビュー数: 7レビュー(全て表示) 最終投稿: 2006年10月28日

小学生時代以来の一気読み。28年前にこの作品を世に出した鳥山明は天才でしょう。

今読んでも感心するのは、独特の世界観と、キャラの豊富さ、アイデアの豊かさ。ネタは中盤以降は焼きなおし、焼き増し的なものが増えてくるが、もともと短編も想定していたという狭い設定の中で、よくぞ5年も描き続けたと思う。加えてメカの描写の細かさや独特さは、現代でも見ていて楽しくなる。

終盤は「ドラゴンボール」の布石っぽい話もあり、まさに本作で「鳥山明」という作者が誕生し、本作を通してストーリー漫画家へ踏み出していった成長の過程がよくわかる。特に中盤以降は一話完結が減って数話にまたがる話が中心となり、作者が「こんな作品が描きたい」とアイデアをめぐらせていたことがひしひしと伝わる。続けてドラゴンボールも読みたいところです。

もうひとつ、改めて読み返して気づいたのは、その画力の完成度だ。大作家の連載デビュー作というのは、1巻と中盤以降ではキャラの絵がかなり変化していることが多いが、本作ではそのあたりの「崩れ」はほとんどない。デビュー時から画力はほぼ完成されていたのだろう。完全脱帽だ。


それにしても、あれだけブームになったアラレちゃんも、単行本は全18巻しかなかったのね。自分世代としては、それが今更ながら意外でした。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2008-12-03 22:29:08] [修正:2008-12-03 22:29:08] [このレビューのURL]

9点 度胸星

山田芳裕の作品はどれも文句なく面白いのだが、その中でもおそらく代表作になったはずの作品がこれ。

キャラが立ちすぎるほど立っている山田作品らしく、本作でも登場人物は個性派ぞろい。一見弱々しいトラック野郎が度胸一つで火星を目指す、っていう設定だけでも面白い。
こまごました絵のSF漫画が多い中、線が太くて力強い山田芳裕の絵がはたしてSFでどうなのか、なんて心配は無用。これが意外とよく合うどころか、望遠から魚眼まで使い分けているような独特のアングルを使いこなす絵は、むしろSF向きであると断言できる。

ストーリーも抜群に面白い。宇宙の未知なる恐怖、そして魅力をここまでストレートに表現した作品は、最近ではとても珍しいといえるだろう。

おそらく近年最高のSF漫画になったであろうこの作品は、ヤングサンデー編集部の方針変更により突然打ち切られてしまった。
2ちゃんねるには続編について語り合うスレが多数立ち、打ち切りから5年以上たった今も再開のうわさが立っては消えている。これほど再開を望まれている未完の大作はほかにない。

作品は文句なく最高点だが、ヤンサンへの怒りを込めて減点しておきます。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2006-11-07 12:58:51] [修正:2006-11-07 12:58:51] [このレビューのURL]

いま連載中の野球漫画で、文句なく一番面白い作品。
ストーリーは典型的な少年の成長物語であり、最近の「うんちく野球漫画」に分類される作品だろう。
野球理論をつめこんだ漫画はもう珍しくない。が、この作品にはほかの野球漫画とは明らかに異質な点がある。

この作品の最大の特徴は「グラウンド視点」で描かれているということだ。絵の構図がまず独特。ホームベース方向から見た内野、投手方向から見たバッターといった、つまり野球中継のような絵が比較的少なく、逆に野手から見たグラウンドがふんだんに描かれている。特に地面が広く描かれ(つまり目線がより低い)、ゲームの経過を示すスコアボードがほとんど描かれない。

一般の野球漫画はしょっちゅうスコアボードが描かれ、読者にとっては「スタンド視点」で話が進むのが普通だが、この作品では自分もグラウンドに立ち、まるで一緒にプレーしているかのような臨場感が味わえる。自分は元球児だが、こうした風景はグラブをもって腰をかがめた時に見える風景をとてもリアルに描いていると思うし、選手の心理にスポットを当てながら進行する作品のトーンにもよくマッチしていると思う。

また解説者的な役割をする人がいないのもいい。プレーの説明はほとんどなく、基本的に各選手が思ったこと、判断したことのみが語られる。甲子園観戦に慣れた人には物足りないかもしれないが、練習試合や地方大会序盤での雰囲気の出し方は本当にうまい。

現時点では、高校生の部活動としての野球をうまく描いており、本当にささいな出来事の積み重ねこそが青春なんだなあと感じさせてくれる。野球漫画にもまだまだ未開拓な部分があるということを示した良作である。

ただ今後、部活動が大舞台を迎えたとき(迎えるかどうかわからないが)、この「草の根的視点」がどうなるのだろうか。このあたりを注目していきたい。
いちおう採点の余地を残すということで、現時点では8点を献上します。


ナイスレビュー: 3

[投稿:2006-11-06 18:22:51] [修正:2006-11-06 18:22:51] [このレビューのURL]

4点 H2

[ネタバレあり]

この作品は、タッチで描けなかった達也vs和也の決着バージョンであり、あだち漫画の集大成といえます。そして、あだち充の野球漫画が終わったことを示す墓標ともいえます。

・比呂=達也
・英雄=和也(擬似和也である新田も含む)
・ひかり=南
絵をみりゃわかるけどね(笑)

あだち漫画において、達也的なもの(不器用なヒーロー)と和也的なもの(完全無欠のヒーロー)の対決は永遠のテーマなのでしょう。その決着をつけようというのですから、これは大変なことです。
ですから脇役もオールスター状態。ひかりと春華の関係は「みゆき」そのもの。デブのキャッチャーとかドタバタ脇役とか、どこかでみたキャラばかりです。

さて、この究極作品、結論から言うと面白くない。
究極の対決が決着しなかったんだから仕方ありません。

あだち的価値観からすれば、達也が敗れていいはずがない。ファンなら誰でもわかっています。でも、和也が生きていたら、果たして和也を負かしてしまっていいのか。一体どうするんだろう。この作品はこれが面白かったんです。

でも結局、比呂と英雄の対決は、どっちが勝ったのかわからなかった。タッチに置き換えていえば、野球では達也が勝ち、和也が負ける。南ちゃんは和也を見捨てられない。あんなに野球での決着に燃えていた和也はあっさり「お前が必要だ!」と安っぽくなっている。

きっとあだち充にも2人の決着が描けなかったのかもしれない。
死んだ和也ならともかく、英雄を生きたまま敗北に追い込めなかったのかもしれない。あるいは、比呂が勝つ場面がいよいよ近づき、タッチとまったく同じ展開になっていることに気づき、無理やり違う方向に持っていったのかもしれない。

とにかく、消化不良感だけが残る作品になってしまったのは否めないでしょう。

加えると、この作品、野球が徹底して面白くない。あだち充はたぶん野球のゲーム性の部分は描けないんだろう。だから、対決場面は、気合を入れると球が速くなるという「火事場のクソ力」的な手法で乗り切るしかない。
さらには、悪役である広田の描き方はちょっとひどい。広田の汚い野球とは、要するにデットボールをわざとぶつけること。ぜんぜん汚くありません(笑)。このへんが古臭さ、幅の狭さを露呈している部分であり、もうあだち充の野球漫画は通用しないかな、と思えるところです。

と、ここまで散々けなしてきたけど、細かい演出や心象描写、あきさせないテンポ、安定した画力などはやはり一級品です。青春漫画としてはさすがのレベルなので、6点ぐらいでもいいかな、と思う。
ただ、大漫画家がストーリーで失敗しているというのはやはりいただけないので、ここは辛めに採点させていただきます。

ナイスレビュー: 3

[投稿:2006-11-06 17:18:42] [修正:2006-11-06 17:18:42] [このレビューのURL]

この作品の対象読者は10代ではない。30代に読ませるための作品である。そろそろ家庭も持ち、子供も生まれ、「この子をどう育てようか」なんて考えているサラリーマンが読む漫画といっていいと思う。
要するに、私のような「第2次ベビーブーム世代」を対象とした受験ノスタルジー漫画なのだ(やや強引か)。だから現役受験生が読んでもおもしろくないし、リアリティもないし、役にも立たない。現役高校球児が高校野球漫画を読んでも野球がうまくならないのと同じように。

ではなぜ、30代のおっさんが読んで面白いのか。それは、この世代の多くが大学受験を経験しており、そしてその経験を客観視でき、「そんな時代もあったなあ」と懐かしめる世代だからだろう。

必死で乗り越えた若かりしころの「受験」が、実はその後の社会でそれほど大事でないと距離を置いてみられる世代。でも、自分の子供の教育には関心がある世代。
そんな世代なら、受験の「カラクリ」を予備校的ノウハウでスパッ、スパッ、と切り取って見せられることが「なんだ、そうだったのか」と鮮やかに見え、懐かしくなる。軽く感心できる。だから面白い。こんなところなのではないか。

取材に協力している予備校のノウハウがただばら撒かれているだけとも取れるが、漫画の世界に新しい可能性をもたらした作品であることは間違いない。
テンポが遅い、字面が多くて辟易する、「常識めいた」教師たちを「型破りの主人公」が一つ一つ撃破するというベタベタな展開、絵がはっきりいって下手(笑)といった点は、この作者の個性といえば個性。
これまでになかったジャンルを切り開いた点は過小評価するべきではないだろう。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2006-10-28 00:42:52] [修正:2006-11-06 13:11:57] [このレビューのURL]

4点 DEATH NOTE

この作品はまずその突飛で過激な設定に目を奪われがちですが、読んでみたらそれほど真新しい要素はありません。

そう、例えるならこれは「麻雀漫画」ですね。

麻雀漫画というのは、麻雀という決められたルールの中で、自分の手を完成させたものが勝ち、というゲームを描くものです。一牌拾っては、一牌捨てる。手の内をさらしながら、互いの手の内を読みあう。読み合いが高度になればなるほどギリギリの戦いになり、読者は「よくここまで読むよなあ」と感心する。

互いが自由に動けない制約の中で、より効率のよい方法を探して相手に勝つ、というのはゲームやスポーツ全般に共通するところです。この作品では、それが人を殺すデスノートであるという点だけが特異で、あとは普通のゲームと一緒ですね。
その中でも、月、Lともに相手のアガリ牌を抱え、いずれそれを振り込むかもしれないという緊張感の中でなんとかしのぎ合うという心理戦の構造は、数あるゲームの中でも特に麻雀にそっくりだといえます。

とはいえ、前半はそれでも非常に楽しかった。「作者に都合がいいよなあ」と思いつつも、ルールはよく練られているし、互いの爆弾牌を大量に抱えるド素人・弥が卓につくことで、より緊張感のある麻雀漫画になりました。
そう、麻雀は完璧と不安定要素が混じるから面白いんです。

だからこそ、後半はみなさんが言うとおり「なんだかなぁ」です。ルールだけが一人歩きし、ゲーム性もなくなり、ストーリーのの破綻を補うように次々と都合のよすぎるキャラが現れる。
もう麻雀じゃなくなっちゃいました。前半とは全然別の物語と言えるでしょう。

というわけで、麻雀漫画が麻雀漫画でなくなったとき、この作品はつまらなくなったということです。

ひとつ加えるとして、この作品は人が死にすぎる。
別に倫理的なことは元々ストーリーに絡まないのでそれでも結構なんだが、こうした「無理やり設定」の数々が世界観の薄っぺらさを強調してしまっている。特に「女子アナの親衛隊」なんて設定が出てきたら、もうまじめに読む気がしなくなる。こういうのをストーリーの暴走というんだろうな。

ナイスレビュー: 3

[投稿:2006-10-28 02:44:20] [修正:2006-10-28 02:44:20] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

競馬漫画と言われるが、「ホームドラマ」と言ったほうがしっくりくる。主題は間違いなく人間ドラマであり、テーマは恋愛だけでなく親子、兄弟、友人といった人間同士の関係、心情の揺れ、人格の成長といった点にも及ぶ。
そして凡百と違う最大の点は、そのさまざまな人間ドラマを、どれかにだけ偏らずすべてをきちんと描ききっている点だ。

例えば一般的なヒューマンドラマは、ストーリーの進行とともにどれかひとつに重心が移っていくことが多い。次第に恋愛中心になったり、友情ドラマになったり。そしてだんだんに消えていくキャラがいて、最終回にだけ再登場したりする(笑)。
ところが本作では、主人公の成長、とりわけ恋愛と仕事での成長を中心にすえつつ、両親が最後まで一定の距離感で登場する。青春モノで両親といえば、たいてい主人公の成長に立ちはだかる最後のカベであり、乗り越えた後は切り捨てられるのが普通だが、本作は家族の絆は最後まで保たれる。そして両親同士の葛藤なんかも忘れずに描かれていたりする。

こうした様々に織り成された人間関係は、全体としてお互いに邪魔しあうこともなく、無駄な部分もない。ホームドラマとしては間違いなく一級品であり、作者の「心配り」には関心せざるを得ない。

こうした人間ドラマが縦軸とすると、競馬は横軸だ。だがこの横軸もハンパな描き方ではない。
生産者の世界、競馬関係者の世界がどれも徹底したリアリティで描かれている。作者のこだわりだろうが、とにかく「そこまでこだわるか」と思うほどの描きこみである。ほのぼのしたトーンの中にも厳しい生産界の状況をきっちり描き、「北海道」「牧場」「馬」といった言葉に都会人が抱く甘いロマンははっきり否定される。これがストーリーを地に足が着いたものにしている。

登場する牧場や競馬関係者、馬、レースにはだいたいモデルと思われるものがあり、競馬ファンにとってはそれを探すのもまた楽しい。最後の有馬記念は、あのレースを参考にしたとしか思えないし(笑)

ちなみに後半のヒロインについては議論があるところだが、自分は肯定派。たしかに当初の魅力はなくなっていくが、作者はそれでも徹頭徹尾、ずっと同じ時間が流れていくことに執着していたのだと思う。競馬漫画でなくても描けた人間ドラマを、あえて競走馬生産という舞台で描いたのは、次代に血をつないでいくという競馬の世界に、家族の姿を重ねたかったんじゃないだろうか。

そうなると、やはりヒロインは少女から母に変化せざるを得ないわけで、そうじゃないと命をつなぐ物語にならない。このストーリーでは、ヒロインはああなるしかなかったとも言える。まあ、恋人が母親になり、昔の魅力がなくなっていくという過程もリアルといえばリアルである。

とにかくあらゆる面においてリアルにこだわった作品であり、ほのぼのしていながらも下手な夢は見させてくれない。そこを楽しめれば最高の一作といえるだろう。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2006-10-28 01:37:38] [修正:2006-10-28 01:37:38] [このレビューのURL]