「can」さんのページ

漫画のレビューを書いていると、自分が神様になったような錯覚に陥ることがあります。神様は言い過ぎかもしれませんが、何やら偉い批評家や評論家の先生にでもなったような、そんな気分になることがあります。
「自分がこの漫画の評価をしてやっている」
「この作品を描いた作者のために、こうしてレビューを書いてやっている」
普段は意識していない無意識下から、こうした認めたくはない言葉たちが、にょきにょきっと顔を出してくるのです。
こういった場にレビューを書いた経験がある人なら、何となくわかるのではないでしょうか。ここまで大げさではなくとも、各作品に対して点数をつけ、レビューを書いたときに得られる何とも言えない優越感。面白くないと感じた作品に対し、素直に「面白くない」とぶちまけたときの爽快感。作品の評価をすることで、自分がその作品より上に立っているという得難い感覚――。
これらは私たちが人間である以上、おそらくは否定できないものです。しかし不特定多数の人間が見るネット上に作品の評価を載せる以上、そういった感覚に身を任せ、自分の優越感を満たすためだけにレビューを書くことは許されません。作品に対して真摯に向き合い、(低評価を下す場合は特に)最低限の責任を持ってこの場に臨むべきです。
そんな「読者にとっての責任」を思い出させてくれるのが、この『ヨイコノミライ』です。堅苦しい言い方をしましたが、別に説教漫画ではありません。分類するとすればおそらく「オタク漫画」であり、舞台はとある高校の漫研です。そう聞いて「なんだ、『げんしけん』みたいなものか」と思って手を出すと、手痛い火傷を負う羽目になります。『げんしけん』がオタクの楽しい部分、ある意味「光」を描いた作品だとすれば、この作品で描かれているのはオタクの「影」の部分。オタクならば誰もが一度は身に覚えがあるであろうイタイ過去を、これでもかというほどほじくり返されます。もしもあなたがオタクならば、「ああ、いるよな、こんな奴」「ああ、いたいた。こんな奴もいた。てゆーか以前の俺だよちくしょぉぉぉお」となること請け合いです。私は微妙に現在進行形でこの作品の登場人物と似ていたりもするので、結構救いようがありません。あわわわわ。
さて。
長々と書いてきましたが結局何が言いたいのかというと、この『ヨイコノミライ』はこのような場にレビューを書く人には一度は読んでおいてほしい作品だということです。もっと多くの人に手に取ってほしいという個人的願望から、点数も高めにつけています。(あ、漫画としてもきちんと面白いので、決して高評価過ぎるということはないと思います)そして読み終えたあと、この作品に出てくる「天原君」にだけは、ならないようにと戒めてほしいです。作品内の「天原君」は幾分誇張されたキャラクターですが、油断すれば誰でもなりうる存在だと思います。
まだまだ書きたいことはたくさんあるのですが、延々と続きそうなのでこのへんで。最後に別の漫画から心に響いた名台詞を拝借して、締めにしたい所存です。
「人のやる事なす事に『中二』とか言って悦に入ってる連中が、一番何も作り出せない層なんだよ! バーカ!!」 by シズル
願わくば一流の読者になりたいなぁという話でした。

ナイスレビュー: 5

[投稿:2008-08-28 22:04:37] [修正:2009-12-02 23:22:41]