「景清」さんのページ

吉田戦車の歪んだヘタウマな描線が紡ぐ極上の不条理4コマギャグ漫画。
しかし、「不条理だから何をやっても許される」といった甘えはこの漫画には存在しない。かわうそくんと森の仲間達の描写はともかく、話の舞台は日本の日常風景であることが多く、学校や職場、一般家庭といった市井の人々の生活空間が確かにそこに存在し、そこで交わされる会話だけを(話から切り離して)抽出してみるとそんなに不自然な感じは実はあまりしない。

例えば田舎から上京してきた大学生、「斉藤さん」を巡る一連の物語を見てみよう。美人のアパート管理人さん(既婚)に励まされながら勉学に励む小心者な苦学生の斉藤さん。無事に合格した後に、実家の母にへこまされたり浪費が祟って家賃が払えなかったり、ブルーになってギターを弾いたり、調子に乗って体育会系の部活に入ったり失恋したりして最後には無事就職する。
こうして見るとどっかで見たような青春コメディだが、それを不条理たらしめているのは斉藤さんが体つきはリアルなくせに顔だけ締まりの無い田舎者の面構えの、不気味な人面カブトムシであると言う点であり、そして周囲も全くその事を疑問にすら思っていないという点である。そのくせ、彼の送る大学生活には得体の知れぬ冴えないリアリティーが悶々と充満している。

 この「不条理」と「条理」のあわい、バランス感覚が絶妙すぎるのだ。圧倒的にねじくれまがったギャグの論理を、市井の人々の織り成す妙に日常的な生活模様が不気味に補完している話が多い。
 この作品に描かれた日常の風景が完全に過去のものとなる前に読んでおきたい漫画ですね。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2005-10-18 20:51:56] [修正:2005-10-18 20:51:56]