「景清」さんのページ

2度もテレビアニメ化されるなどかなりヒットした学園ラブコメ漫画だが、完成度的にはお世辞にも洗練されているとは言いがたい。作画のクオリティは安定せずギャグは滑ることが多く、重要な話とそうでない話に温度差がありすぎ、物語に大量のフラグをばらまく一方で未回収に終わることもままあり、最終回に至っても人間関係の大半は未整理なままで、おまけにその最終回もマガジン本誌と増刊号とで2種類あるとう始末であった。

作者の小林尽は本作がメジャーデビュー作だったが、同誌の赤松健(ネギま)や久米田康二(絶望先生)らの先輩陣と比べるとどうしてもこなれていない感が漂っており、足かけ6年にわたる長期連載の中でいろいろボロがでてきた部分も多かった。キャラクター人気に頼った駄作とう評価も、あながち間違いではないとは思う。しかし。

それでも自分は本作を推したいのだ。上述のように未成熟な部分も多かったけれど、作画とギャグとドラマ、それらに時折かいま見られたポテンシャルの高さに、普段はどーでもいい日常を送りつつも時々ハッとさせられるような体験もしてきた自分たちの学生時代の記憶を呼び覚ます何かが感じられたからである。
そもそも絵に描いたようにスマートで非の打ち所のないような青春時代を送った奴などそうはいない。たいていの場合、青春とは愚かでこっぱずかしく、それゆえに愛すべき物である。この作品の持つ未成熟さは、換言すればかつては誰もが持ち、そして子供たちがいずれ経験するであろう”青春時代”のあのままならなさ、こっぱずかしさ、それらを包括したある種の美しさや楽しさの追体験だったのではないか。

男女様々な人物が入り乱れ、勘違いや衝突、惚れた腫れたの騒動を繰り返す物語構造は一見古典的だが、そのキャラ配置は主人公を太陽系の中心に据えたようないわゆるハーレム型ではなく、複数のメインキャラが互いに一方通行の分子運動的乱反射を繰り広げるというかなり複雑な物語構造となっており、それら登場人物達もそれぞれ個性的なキャラを持つ一方で安易な属性化には収まりきらない適度なキナ臭さも持っており、そういう部分から湧き出る叙情性が本作の大きな魅力だった。バカバカしい話が多い一方でそういうビルドゥンクロマンス的魅力もたたえていたのである。

特に自分が本作で気に入っていたのは、登場人物の多くが所属する2ーCのクラスが、それこそ連載開始当初は誰も見知った者がいないような状態で始まった(当然だが)のが、連載を経て以前は背景の一モブキャラに過ぎなかったような奴らに次第に人格的肉付けが成されていき、最終的に男女問わずみんな愛すべき見知った友人達のようになっていった点である。それこそクラス替えで初顔あわせた生徒達が一年後にはクラスメイト同士の連帯感で結ばれるかのようなこの作劇には、作者の優れた才能をかいま見ることができたし、こういう部分こそ近年の他のラブコメ作品にはあまり見られなかった本作の大きな魅力がったのだ。
塚本姉妹や播磨や沢近といったメインキャラだけでなく、こういうクラスの雰囲気そのものを好きになれるかどうかが本作を気に入るかどうかの分岐点ともなるだろう。

何度も言うように洗練された作品ではないけれど、それでも学園ラブコメ漫画というジャンルにおいて特異な地位を占める作品となっかことは間違いない。そんな本作を自分は密かに「ラブコメ大菩薩峠」とあだ名して呼んでいる。
ああ、ただ、作中不自然なほど触れられなかった、主人公の塚本姉妹の家庭事情(広い家に高校生の姉妹二人だけで住んでいる)をもうちょっと詳しく描いてくれれば、というのが最後の心残りである。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-01-27 00:03:01] [修正:2010-01-27 00:19:52]