「景清」さんのページ

 歴史にifは禁物だが、それでも我々は「もし◯◯があの時生きていれば…」とか「もし??が△△時代に存在したら…」式の妄想シミュレーションが好きである。また、「虎とライオンが戦ったらどっちが強い?」という類の現実にはありえないドリームマッチを妄想するのもやはり大好きだ。侍vs西洋騎士、レシプロ戦闘機vs飛龍、名将スキピオとハンニバルの共闘…。
 そういう(主として男性の)興味や妄想を満たすために架空戦記小説やゲームの類があるわけだが、そんなボンクラ男子的妄想エンジンをフルバーストさせながら我らが夢工房(ドリームファクトリー、略してドリフ)の平野耕太が精緻なカスタム基板を組み上げコインいっこいれた結果起動したとンでもない物語世界、それがこの『ドリフターズ』だ!

 物語の基本はいわゆる異世界召喚モノである。関ヶ原で徳川勢と戦い壮絶な討ち死にをしたとされる荒武者の島津豊久を筆頭に、織田信長やらハンニバルやらジャンヌダルクやらと史実において非業の最期や謎の失踪を遂げた古今東西の英雄豪傑が、何者かの意思によってエルフとかモンスターの存在するファンタジー世界に召喚されて大暴れするというのが基本的な骨子だ。
 この手の作品自体はこれまでも多くあった。ファンタジー世界に平凡だった少年な少女が召喚されて大活躍するのもある種の定番ではあったが、本作にはそれら既存作品と比較してもひっじょーにアクの強い個性が感じられる。

 理由の第一は主人公をはじめ登場する英雄豪傑達のほとんどがマトモではない事である。主人公の島津豊久は人情に篤い好漢だが、その本性は乱世と血煙を無上に好み大将首を奪る事に血道をあげる戦闘狂だ。織田信長をはじめ他のキャラもだいたい似たり寄ったりであり、そこかしこから「諸君戦争が好きだ好きだ好きだー」という心の声が念仏のように聞こえてきそうなほどである。そういう迷惑極まる連中に蹂躙されまくるファンタジー世界の皆様にはご愁傷さまという他無い。

 理由の第二は、世界設定からして非常にゲーム的な意匠が徹底されている点だ。作者はコアなゲーマーとして有名なので、そのあたりの雰囲気は狙ったものだったのだろう。舞台となるファンタジー世界はまさしく箱庭のトップビューマップであり、召喚されてきた豪傑達は戦国無双な戦闘ユニットなのだ。単行本1巻の時点ではまだ詳しい設定は明らかにされていないが、彼らを異世界に送り込んだ神の如き上位存在が物語には2名存在し、物語の舞台となる世界はそんな二人による殺戮のチェスゲーム盤である事が示唆される。
 片方の人物(司書風の眼鏡男性)が送り込んだ島津豊久などの戦闘ユニット達が「漂流物(ドリフターズ)」と呼ばれるのに対し、「EASY」と呼ばれる対立陣営の少女が送り込んだ土方歳三やジャンヌダルクらの戦闘ユニット達は「廃棄物(エンズ)」と呼ばれる。いずれはこのドリフターズvsエンズの激しいストラテジーアクションが展開される事になるのだろうが、これら設定で注目すべきはドリフターズが現実世界の面影をとどめている一方で、エンズの側は現世で受けた仕打ちへの憎悪からかすっかり人外の力を操る狂気の怪物と成り果てている点だ。まさしく「EASY」の名に相応しく能力を違法コードでチート改造されたゲームバランスの破壊者達であり、そんな連中にドリフの一行がどう立ち向かっていくのか、興味は尽きない。ともあれかくも物騒なゲームの舞台にされてしまったファンタジー世界の皆様には、やはりご愁傷さまである。

 理由の第三、こう言ってしまえば身も蓋もないが、作者がヒラコーだからである。こんないかれた戦闘狂どもがハタ迷惑な騒動を起こしまくる妄想全開不謹慎漫画をそれでも面白いと感じさせてしまう筆力。まるで軍用ショベルで後頭部をベチベチ叩かれながら「あ゛あっ?゛、面白いって言えやゴラ」と強要されるような不埒な面白さ。野卑さと格調高さが不思議に同居した力強い平野節の魅力。理由の一とニも、結局はここに行き着くのだ。なにはともあれご愁(以下略

 ドリフト走行を続ける先の読めない展開が続く本作だが、1巻を読む限りでは今後がどういう展開であれ大いに楽しみである。豪傑ユニットを駆使した「大戦略」「コマンドアンドコンカー」「信長の野望」的な本格ストラテジー路線、異世界を舞台とした「幻想水滸伝」的なヒロイックファンタジー路線、とりあえず英雄豪傑最強決定戦な「ワールドヒーローズ」路線(サイボーグのドイツ軍人とかも是非出して欲しい)、どう転んでも楽しそうだ。しかし一癖も二癖もあるドリフターズ達が、神の如きゲームマスター達の意に従ってゲームの駒に甘んじるとも思えないので、いずれはそんな傲慢な世界設定そのものを「おれたちはモノじゃない」と気合と根性と悪ノリで破壊するような壮絶なバグを引き起こすことも期待している。

 その際に使用される武器がチェーンソーであれば尚良かである。これもサガか……。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-03-10 23:31:27] [修正:2011-03-20 19:45:45]