「景清」さんのページ

 誰でも授業中に”内職”をした経験はあるだろう。ノートの欄外に落書きしたり、歴史教科書の偉人に額に「肉」とか描いたり、机に絵を彫ったり、隣席と手紙を交換しあったり、教科書で隠しながら早弁したり、と、内容や程度にばらつきはあるがこれらの内職が学園モノの作品などで作劇や演出の一環として描かれることは多々あった。

 そこにきてこの『となりの関くん』だが、本作は何とそんな授業中の内職をピンポイントでテーマに据えた作品である。非常に地味なテーマに関わらず内容は予想の斜め上を行く奇想天外さや、甘美な背徳感に不思議な清々しささえ加わって独自の境地に達している感すらある。

 ストーリーの背景設定・人物設定ともに本当に必要最小限のミニマムなもので、机と机の中間点を起点に半径2m以内くらいで収まる小さな世界のささやかな秘め事が描かれる。
 となりの席の関くんは、今日も授業そっちのけで内職に励み、そんな彼を横から見守る(自称)真面目少女の横井さんは、関くんの一人遊びに気が散って勉強のペースも狂いまくり。だけれど迷惑に思いつつも関くんの繰り出すあまりに奇妙で独特な内職がどうしても気になってしまい、小声でコミュニケーションを試みたり心中で盛大にツッコミを入れたり、遂には実力行使で彼の遊びに介入したりしてしまい、結局授業どころではなくなってしまう横井さん。

 基本無口でほとんどしゃべらずひたすら謎の内職に情熱を傾け続ける変人の関くんに対し、授業中故に心中でツッコミを入れるしかない横井さんという二人の関係性以外にキャラが描かれる事はあまりなく、作品の設定上舞台もほぼ授業中に限定される。(一応教室だけでなくグラウンドや理科室などのバリエーションは多少ある)
 だが物語はそんな二人の奇妙な関係のみで成り立っているわけでは無く、二人の周囲には「授業中の教室」という空間が厳然と存在する。そこでは厳しい先生や空気を読まないクラスメイトが周りを囲んでおり、物語に不思議な緊張感と穏やかな背徳感を与えていて面白い。

 あと、やはり面白いのが関くんの繰り出す奇天烈な内職の数々だろう。彼のかばんや机はさながら四次元ポケットであり、毎回読者の予想の斜め上を行く超展開が待っている。単行本第一話の消しゴムを使ったピタゴラ装置もかなりのものだったが、それ以降も将棋とか囲碁とかチェスとか一見ありふれた素材を用いながら誰にも真似できない独自の一人遊びワールドを展開し、読者は横井さんと一緒になって盛大に突っ込む。心中で突っ込むだけではあきたらず、横井さんは実力行使で内職に介入したり時には共同戦線を張ったり出し抜かれたり、と言葉を介さない謎なコミュニケーションが関くんとの間に形成され始める。

 本作はそう考えると一種のガールミーツボーイものでもあるかも知れない。年頃の少年少女にとって隣席の異性はそれこそエイリアンのような存在だが、この関くんのエイリアンっぷりはただごとではない。と言っても蟻酸を吐いたり人の胸を食い破って出現したりするのではなく、とびきり偏屈で何を考えてるのか分からないが、どこか憎めない子供っぽさを残した我が道を行く意地っ張りな、そんなエイリアンである。

 作品の設定が設定ゆえにあまり長続きするタイプの作品ではないかも知れないが、作画内容ともに安定しているので、今後も楽しんで読んでいきたい。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-05-15 23:18:09] [修正:2011-05-23 23:34:50]