「景清」さんのページ

 TV版の放映開始から15年以上を経てもなお新作劇場版が作り続けられるなど、すっかり息の長い作品として定着した『新世紀エヴァンゲリオン』。本作『トニーたけざきのエヴァンゲリオン』は、このアニメ史に残る大人気&問題作を、『岸和田博士の科学的愛情』など高い画力で徹底的にくだらないネタを描き尽くす作風で知られるトニーたけざきによっていじり倒したエヴァンゲリオンのパロディギャグ漫画である。

 作者は以前もガンダムのパロデディギャグ漫画『トニーたけざきのガンダム漫画』において、原作のキャラクターデザインを務めた安彦良和の画風を忠実に再現しつつギャグ化するという離れ業を成立させた実績(前科)があった。
 表紙にはVHSビデオ版10巻のジャケット絵を彷彿とさせる構図でエヴァ初号機がラーメンを貪り喰うという実に素敵なデザイン。巻頭のカラーページの下らなさも文句なし。安彦良和ほどでは無いにせよ作者はオリジナルの貞本義行の画風をかなり忠実に再現できており、そこらへんのアンソロジーパロディ漫画とは格の違う作画力も堪能できるようにはなってはいる。下ネタやキャラ崩壊、実写特撮版ジャイアント・ロボなどのコアなパロディなど期待通り(?)の下らなさもそれなりに堪能できたのだが、全編に漂う何とも言えない”今更”感は残念ながら払拭されなかった。

 アニメ界においてエヴァが人気を極めた90年代後半、物語の結末・謎を一切放棄したあの衝撃的なTV版の最終回以降、ファンの狂熱は収拾不能な域に達しつつあった。物語の謎解きからキャラククターの精神分析、映像学的観点、オタク論やポストモダンなどなど様々なジャンルの関連本が鬼のように出版され、アンソロジーコミックもパロディギャグからラブコメにシリアス、「ボクの考えた真の最終回」、果ては18禁にやおいと公認から非公認までやはり収拾がつかなくなっていた。ゴッズインヒズヘブン、エンジェリックインパクト、失楽園、サマーチルドレン……。
 これらのアンソロ漫画の多くに共通していたのは悲劇的展開と投げっぱなしの結末に翻弄されたファン達の「真の結末は?」という飢餓感による異様なハイテンションのもたらず”祭り”感だった。そんな状態が1年余り続き、物語の真の決着を切望するファン達の飢えた口中に全力で泥団子を突っ込んだ旧劇場版の阿鼻叫喚を経てエヴァブームも次第に収束、アニメ業界も平穏を取り戻していった。

 本作には残念ながら当時ほどの狂熱を感じることは出来なかった。やはり第1次エヴァブームから時間が経ち既にエヴァが一つのネタとして定着し、パチンコになったり他作品などでもさんざんパロディされ消費しつくされてきたというのもあるし、近年公開されている新劇場版で、往時のファンが夢見たようなそれこそ同人誌的な超展開が原作者自らの手により実現されつつある事もその理由だろう。自分が年をとったからというのもあるのかも知れない。
 本作が90年代後半当時、『岸和田博士』の合間に発表されていたら伝説的パロディ漫画になったかも知れないのだが。

「エヴァの半分は「エロと裸体」でできているんだぁー!!」←これは至言だった。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2011-11-27 22:40:02] [修正:2011-12-10 17:07:37]