「とろっち」さんのページ

夏休み。 とある喫茶店で起こるファンタジー。 夏の間の思い出か、それとも夢か幻か。
暑さと、儚さと、どこか懐かしいノスタルジックさが同居した作品。

登場人物の多くが戦中の淑女だからでしょうか、会話が全般的に落ち着いた雰囲気でなされ、
そのために作品自体もどこか落ち着いた印象を受けます。
やっていることはドタバタなんですけどね。
現在と過去とを行き来する話なのですが、この手の話には必ずついてまわるタイムパラドックスに
関しても、工夫してうまく折り合いをつけていると思います。

現在から過去に行った時、あるいは過去から現在に戻って来た時、読者も一緒に時代のギャップを
感じてしまうような、絵柄の差異、感覚の差異、雰囲気の差異の付け方が秀逸です。
差異を意識しすぎているのか、最近は過去の描写がちょっとオーバーな気もしますが。

作中のところどころで「死」という漢字の使用を敢えて避けている場面があります。
その使い方は、読んでいて違和感を感じてしまうほど。
死が遠いところにあると思っている現代人たち。 既に死を経験してしまった彼女たち。
「死ぬ」 ではなく 「しぬ」 と柔らかい表現を使うことで示されるのは、「死」への実感の無さか、
「死」をもう二度と思い出したくない深層心理の表れか。

主人公の少年たちがひと夏の間にどんどん成長していくのも好感が持てます。
対して、彼女たちの人生は止まってしまった。 人生を謳歌する前に幽霊になってしまった。

「実は私 恋愛を経験する前に 空襲で死んじゃったのよ」
「私達が生きられるのは 夏の間だけなんだもの ……そんなの切ないじゃん」

「命短し 恋せよ乙女」 ですか…。
これほどこの言葉が似合う作品もないのかな。

「だから 生きてるあなたは 恋をしなよ!」
 

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-09-15 01:34:07] [修正:2010-09-15 01:37:00]