「とろっち」さんのページ

ドラクエが好きな方、特にファミコン時代から慣れ親しんでいるような方には必読の一冊。

ゲーム黎明期。 後にドラクエのプロデューサーとなる千田幸信が、堀井雄二、中村光一という
2つの輝く才能と出会い、今や国民的ゲームとも言うべき「ドラゴンクエスト」ができるまでの努力と苦悩、
波乱万丈な道程を、ドキュメンタリータッチで描いた作品です。


当時はアクションやシューティングゲーム全盛期。 まだ日本に一般向けのRPGがなかった時代。
時代の先を読んだ千田氏がドラクエの企画を立ち上げたときも、業界は元より社内での反応すら、
「だってRPGはマニアのゲームだよ!? 売れないんじゃない!?」

運命の糸に導かれるようにして結集した最高のスタッフ (作中では鳥山明の出番が少なめですが)。
しかし日本初の大衆向けRPGの制作はやはりハードルが高く、頭を悩ませ、試行錯誤を繰り返します。
いかにわかりやすく、それでいて面白くできるか。
ドラクエの容量は512キロビット(=64キロバイト)。 今なら写メ一枚分にも満たないぐらい。
容量の都合上カタカナは20文字しか使えず、メイン楽曲も8曲のみ。
それでもあんな凄いものが出来てしまうんですよね。 人間の想像力は無限大です。
ゲームに限らずとも現在では当たり前のように享受しているような物事やアイディアでも、
最初に誰かが考え、創意工夫して作り上げたんだな、と思い知らされます。

もちろんトラブルや揉め事だって起こります。
すぎやまこういち氏の起用を巡る中村光一のトラブル等は有名なところかもしれません。
(実際には千田氏が起用を渋っていたという話もあるみたいですが。)

それもこれも、良いゲームを作ろうという強い思い、こだわりがぶつかり合ったゆえのもの。
「わたしの夢はただひとつ! 世界一のゲームソフトをつくることです!!」
「ぼくは……売る側の都合で、遊んでくれる子供たちの期待を裏切るようなことはしたくありません」
熱いなあ。
数多くの似たようなゲームが氾濫する中で、ドラクエがここまで生き残り、こんなにも成功できた理由。
この漫画を読めばきっとわかります。

そして、ついに完成。
全身全霊で締めの作業に打ち込んだスタッフ陣、そしてそれを見守ったこの漫画の読者をも、
すぎやまこういちが奏でる「広野を行く」(フィールドの曲)が暖かく包み込んで祝福してくれます。


子供の頃に何度となく読み返し、手放して一番後悔したかもしれない作品です。
絶版になるとは思わなかったので…。
先日運良く再度手に入れる機会があり、即購入。 もう手放すことはないでしょう。
改訂版もあるようですが、影の貢献者とも言うべき鳥嶋氏(マシリト)が大人の事情で出てこなかったり、
他にも内容が大幅カットされているらしいので、読むなら是非とも初版本を読んでほしいです。

良いものを作ろうとする熱い気持ち、面白いものを世に広めようとするワクワク感、
そして新しいものを生み出そうとする少年のような夢や冒険心。
そういうものがこの作品にはたっぷり詰まっています。 お薦め。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-11-29 01:22:34] [修正:2010-11-30 02:19:51]