「とろっち」さんのページ

非常に丁寧な作りの良作。

裁判開始から判決までが一連の流れとなっており、どこかの名探偵みたいに事件の謎を解いて
真実を暴くのではなく、あくまでも裁判員制度に重点を置いたドラマ仕立ての作品です。

挙げられている事件は確かにありがちな展開が多いですし、裁判員に選ばれた登場人物たちも
ステレオタイプ的なキャラが目立ちますが、この作品は独創性を前面に出すようなものではなく、
実際に裁判員になったときにどのように考え判断すればよいか読者に擬似体験させることまでを
念頭に置いて作っているのがよくわかります。
人情ドラマの要素も多少含まれているために被告人に有利な判決になりがち、という点を差し引いても、
そこに行き着くまでのプロセスもきっちり描かれていて、十分に見応えのある話に仕上がっています。

裁判ネタだから当たり前かもしれませんが、何が正しいかを明示していないところが良いです。
人の数だけ正義があり、主義があり、哲学がある。
そんな中で、年齢も性別も社会的立場も全く異なる人たちが集まって「人を裁く」とはどういうことか。
有罪か、無罪か。 量刑はどのくらいか。 正解などもちろん無い中で答えを出さなければなりません。
死刑にするか否かの討論を「人殺しの相談」と評するセンスにはなかなか驚かされました。

当初、主人公の主張は単なる青臭い理想論にも聞こえましたが、主人公の背景が描き出されて
考え方のバックボーンが明らかになると、途端にその発言に深みが感じられるようになってきました。
全体の構成や見せ方はかなり上手いと思います。

裁判員制度の説明が詳しくてわかりやすいだけでなく、普通に漫画としても面白いです。

これから成人を迎える人の67人に1人が、生涯に一度は裁判員になる可能性があるそうです。
この作品のサブタイトルは、「知らずに人を裁くのですか?」
読んで裁判員制度に必要な知識を十分得られるかどうかはわかりませんが、
少なくとも興味を持つきっかけとしては申し分ない作品です。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2011-04-23 13:41:57] [修正:2011-04-23 13:41:57]