「とろっち」さんのページ

8点 OZ

わずか40分間で終了した第三次世界大戦によって世界人口は激減。
疑似氷河期を経て未だ戦乱と混迷の治まらない地球において、囁かれる一つの伝説。
それは、飢えも戦争も無いという伝説の都市、OZ…。

舞台は旧・アメリカ合衆国が大きく6つに分裂したうちの1つの共和国。
大戦によって植物は完全に枯死し、寸断された交通・通信網は容易に回復せず、各地で争乱が起こり
至る所で住民達により立国宣言が相次ぐ、という北斗の拳もビックリな世界観。
優秀な傭兵である主人公は、周囲の国々との戦争・交渉・謀略が続く中、雇い主の女性を守りながら
伝説の都・OZを目指す、樹なつみ氏お得意の近未来SFアクション。

少女漫画誌に掲載されてはいたものの、絵も内容も世界観も少女漫画の規格を遥かに凌駕した作品。
『オズの魔法使い』をモチーフにしたという本作は、とにかく骨太でスケールの大きさを感じさせます。
少女ドロシー、知恵がない案山子、心を持たないブリキ男、臆病なライオン、そして魔女や大魔法使い。
それぞれのキャラがどれに相当するのか楽しみながら読み進めてみるのも良いと思います。

主人公とヒロインとの恋愛模様もありますがそこまでメインとして描かれているわけでもなく、
むしろ少しずつ自我や感情を獲得していくヒューマノイド(=人造人間)との心の通わせ方
(と言うか疑似恋愛と言うか愛憎と言うか)が作品の核となっており、その描写が非常に秀逸。
ラストは綺麗にまとまっていて素晴らしいです。
同時に、アシモフの「ロボット工学三原則」に作者なりの解釈が加えられており、
考えさせられるような結末にもなっています。

作者の絵はこの頃が一番好きですね。
洗練されていながらも読みやすい絵柄に加え、骨太の近未来SFに相応しく、アクション映画を彷彿と
させるようなエンターテインメント性をも感じさせる構図。
まさに樹なつみという作家の持てる力を存分に凝縮した、個人的には作者の最高傑作だと思います。
が、一つだけ残念な点を挙げると、あまりにも凝縮させすぎて、内容のボリュームの割に
巻数(通常版4巻、完全収録版でも5巻)が少なく感じられること。
おかげで展開が速い速い。 もうちょっと巻数を増やしてじっくり描いても良かった気がします。

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[投稿:2011-10-28 01:39:33] [修正:2011-10-28 01:42:25]