「クランベリー」さんのページ

東村アキコ版「まんが道」。のはずだけど全然違う。
先生、先生、とにかく先生。
作者の半生を描いたというよりは、「先生と私」をこれでもかっていうくらい濃密に描いた作品。

先生の猛烈に破天荒な人柄と、作者の「当時のバカな私」っぷりがとっても楽しく、一方で、ところどころで出てくる「現在の私」から先生へのメッセージが後悔や自責の念に溢れたほろ苦い味わいがあって、途中までは本当に面白かった。

ただ世間での評価は割と賛否両論で、手放しで絶賛する人が多数を占める中、「あんなにお世話になった先生をあっさり見捨てるなんてクズすぎる」みたいな意見も一定数あるようで。
確かに最終巻を読んでいてちょっと醒めた部分はありました。
だって先生に対する懺悔や後悔というよりは、自分自身への言い訳にしか感じられなかったから。
「なんであの時○○しなかったんだろう…」ではなく、「あの時○○しなかったのは××だったからしょうがない」っていう。全編そんな感じ。

でも冷静になって考えてみると、「あんなにお世話になった先生」も、「それをあっさり見捨てるクズな私」も、作者の目を通して描かれた世界観の中の登場人物なんですよね。
細かいところをいろいろとぼやかして、作者自身の好感度を上げつつお話を終わらせることも十分可能だっただろうに、敢えてそれをしないで作者のありのままを先生にぶつけたお話。
美談にはせず、尊敬とか悔恨とか思慕とか葛藤とか郷愁とか慙愧とか、作者のいろいろな気持ちをごちゃ混ぜにして出来上がった文字どおり作者の自伝的なお話。
これを読んで作者のことを悪く思う人はいても、先生のことを悪く思う人はいない。
そう考えたら、私はこのお話がとても好きになりました。

「先生と私」を読者に向けて面白おかしく描いた1巻から4巻。
「私の気持ち」を先生に向けて誠実に描いた最終巻。
思えば最終巻が読みづらかったのも当然なのかもしれないですね。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2016-05-14 22:50:22] [修正:2016-05-14 22:50:22]