「久」さんのページ

[ネタバレあり]


今迄自分が読んできた漫画と違い、"等身大"という生々しいリアルな演出を強く感じる事ができる
現実的なファンタジーだなと思いました。

キャラで言えば、

ミツはとにかく"一般的な人"という点がとてもリアルに描けているなと感心しました。
周りの事という大きいベクトルよりも、自分の気になる事やしたい事を優先。また、
自分では考えず人に流されてしまうというのもありがちな事ですからね。少なくとも自分にとっては。
なので、自分の不甲斐無い様子を客観的に見せられてる気になってちょっと恥ずかしい気分に。
でもそんなとことん一般的な奴へ特殊能力を与えられている為感情移入が簡単。
能力も特に考えなければ「だから何だ?」と思ってしまう程ちっぽけで舞台も現代風なので
「もし本当に自分がそんな力を持ったら実際にはこういう使い方するのかな?」と
あれこれリアルに想像できました。

この作品を読んでると、他の普通の漫画の主人公達の人間離れした状況適応能力や勇気、
行動力などに違和感を覚えます。リスクを考慮せず命の重みも知らず
表面上格好良いままに動く自己中心的なサイコパスだとさえ思えてしまう。
好みの問題もあるとは思いますがやっぱり、キャラがその世界に生きてちゃんと考えて動いてる
というリアリティを感じられる作品はその世界にどっぷり浸かる事ができるので大好きです。

またイッサの合理的で達観した考えに人間味という点は感じる事ができませんでしたが、
それでもイッサ自身の意思、考えを提示されしかもそれが感心できる物も多く存在感を感じます。
でも、悪い奴を1人残らず殲滅するという事は理論的には間違ってないと思いつつも
絶対に不可能だと思うのですよね。例えば「悪い奴を殺して世界を良くしよう」なんて事にも
「人の感情を無視する愚か者」「不可能を可能と思う馬鹿者」=「悪い奴」のように
どんな事も「善」とも「悪」とも「どうでも良い」ともとれるので
思考のある世界が滅ぶ事以外に悪い事を止める手段は無いと思うのですよ。(飛躍しすぎですが)
だからこそ殺す以外の解決方を見つけていかなくちゃならないとは思うのですが
最初から「死ぬべき」と切り捨てているのでそれもまた思考停止と思ってしまいます。
ですが、少なくともそれらの台詞を聞いた後にポイ捨てや運転通話をしようだなんて思う人は居ない
と思うので、意識付けという点ではかなり成功していると思います。
むしろそれこそが本当の狙い…!?
イッサの台詞には少々高圧的で説教臭い感じもありますが、ミツという一般人が居てくれるおかげで
感情が一方向に傾くこともなくバランスが良いと感じます。

物語的にも台詞だけで進む事が多いですが、ミステリー(?)サスペンス(?)的要素があり常に何かしらの
謎が張ってあるので最後まで読み進めてしまいます。
その謎も「主人公に実は謎の能力がある?」などの全く予想外な事だったりするので
更に謎を追いかけたくなります。

そして個人的に一番ゾクっときた来たのが、誰かに後を付けられてると気付き振り向くと、
相手が無言で姿を引くシーン。他なら集中線や極端な驚き様で恐怖の演出をするのでしょうが、
ただただありのままの現状を見せられ現実味を感じ、本当に付けられたらこんな気分なのか、と戦慄。
"読者をその場に立ち会わせる"という部分において天才的な演出力を持つ作者さんだと思います。
この人の他の作品も全て読んでみたいと思える程驚きました。

でもラストは何だか釈然としなかったのですよね。確かに謎は解けましたが
物語の最初と最後で特に何も変わってない気がしたので。

ですが基本的な面白さもあり今まで見てこなかった現実にハッとさせられる力強い強い台詞もある
良い漫画だと素直に思えます。読んで良かった。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2015-06-16 11:02:38] [修正:2015-06-16 11:02:38]