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8点 壁男

[ネタバレあり]

表題作は「壁男」だが、雑多な作を詰め合わせた短編集になっている。前半部は表題作を中心とする現代社会もの、後半部(第二部)は幻想SFが収録されている。傾向も時期もバラバラで、統一的な評価はできない。以下各話寸評。
「壁男」現代社会を舞台とするホラー的作品だが、宗教や伝奇などの背景を持たずに展開する作風が却って異質。隣接するのに見えないという実に地味な恐怖をうまく描いているが、描写は漫画ならではのもののように感じる。何故映画化(未見)されたのかわからないが、あまり目立つ作品にはならないように思う。(6点)
「ブラック・マジック・ウーマン」随分古い作品で、コミカルなホラーという不思議な世界。(5点)
「鰯の埋葬」会社(組織)の持つ狂気は、繰り返し描かれるテーマ。本作では宗教を絡めてやや猟奇的に描写されている。(6点)
「会社の幽霊」これも組織の狂気ぶりを描くシリーズ。(5点)
「夢の木の下で」モボクが登場する話の一つであり、「遠い国から」のシリーズの原点となるエピソード。幻想的なストーリーの最後で一縷の希望を示して終わっており、第四信で壁越えが成功したことが暗示されている表現に繋がっていく。(7点)
「遠い国から第一信」既評(8点)
「遠い国から追伸カオカオ様が通る」前作の続きとして位置づけられており、旅情と虚無に溢れる展開が引き継がれる。ただ前作から15年以上の制作間隔があり、絵柄やストーリーは随分異なっている。カオカオ様の意味が最後まで語られないところが不安感を煽る。(7点)
「第三信ナルム山紀行」ナルム馬の解説のシュールさが凄い。(6点)
「第四信荒れ地にて」連作の最終作になると共に、主人公の旅の終着点になるのだろう。モボクや壁の現在が語られるが、「夢の木の下で」で示された希望とは裏腹に、絶望や虚無で終わっている。荘厳なラストは圧巻。(8点)

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[投稿:2008-01-12 10:34:11] [修正:2008-01-12 10:34:11]