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 4巻で完結してしまいましたねぇ。前にレビューした時にはけっこう批判的なことを適当に書き散らしたような記憶があるので、完結によせてちょっと整理した上でもう一回書き直しておきたいなと。

 「星を継ぐもの」というタイトルさえついてはいるものの、実際に星野之宣がやっているのはJ・P・ホーガンの星を継ぐものを含む3部作を再構成したコミカライズ。ちょっと間が空いて発表された3部作の続編である「内なる宇宙」は含まれていないと思う(これは読んでないので自信はない)。

 古いSFというのもあってかこのシリーズには矛盾点や少々科学的考証がおかしい部分が多々あるのだけど、そういう所を星野之宣は上手く再構成してさらに物語の流れをスムーズに追いやすくしてくれている。ここはさすがベテランの腕の見せ所ということで、ちょっと驚くくらいに読みやすい。
 ただスムーズに流れが追えると言うのは原作の楽しさと矛盾する点でもあるわけで。特に「星を継ぐもの」「ガニメデの優しい巨人」で最高にわくわくさせてもらった私としてはちょっと残念な気がするんだよなあ…。要はこの2作におけるチャーリーの謎、そして人類の起源を解き明かしていくミステリーのおもしろさというのは実際に自分がディスカッションに参加しているようなわくわく感なのだ。こうでもないああでもないと言いながら議論しあうからこそ、議論が紛糾した場面でここぞとばかりにハントが発想を飛躍させる場面は最高に痛快だし、ダンチェッカーがシニカルに論理を進めていく姿は奥深い。またガニメアンのデザインは秀逸なのだけれども、ガニメアンとの交流の場面が大部分端折られているために、“善き人々”である彼らの姿が少々薄っぺらく感じてしまうなんてこともあった。物語がスムーズに追えるというのは一方で、原作が持つセンス・オブ・ワンダーを損ねてしまっている。

 かといって主に4巻部分における「巨人たちの星」パートだってけっこう扱いはおざなりだよなあ…。この巻は論理を深めていく物語であった前二作と打って変わってハントのロマンスだったりスパイアクションまであったりして、また違ったおもしろさのある作品なのだけれども。このコミカライズにおいて、星野之宣はここらのパートはどうでも良いよとばかりにすっ飛ばしていくので、その分と物語としては駆け足かつ薄味さが際立っていたように思う。

 また身も蓋もないことを言ってしまうと、あんまりホーガンの作品を映像化する意義を感じないんだよね。ホーガンSFのセンス・オブ・ワンダーはあくまで物語に感じるもので、読み取れる世界観自体はかなり無機質なものだから。そういう意味では星野之宣とホーガンは似ているとは思うのだけれども、似ているからこそ星を継ぐものの世界は私の想像を超えるものではなかった。
 例えばヴァンスやオールディスみたいな、色彩豊かに異世界を描き出すSFこそを漫画で読んでみたいな。貴志祐介の新世界よりの漫画化が期待はずれだっただけに(アニメは1話だけ見たけど中々良さそう)、市川春子あたりがこの手のSFを漫画化してくれないかななんて妄想しているのだけれどどうだろう。

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[投稿:2011-11-19 23:44:07] [修正:2012-10-14 17:11:19]