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 久正人による世界中の異形を集めたクロスオーバーコミック。

 米軍によって集められ、隔離された世界中の異形を集めた街であるエリア51。そんな危険な街で探偵家業をこなす真鯉徳子は河童の相棒キシローと共に様々な事件をハチャメチャに解決していく。そしてどうやら徳子にはエリア51にやって来た壮絶な理由があるようで…。

 この世界中の異形ってのが実に便利な言葉で、神話から民話から怪奇からもう何でもありなのだからいやはや好みの人には実にたまらない漫画。アマテラスとネッシーとサンタクロースと河童と白雪姫が同じ世界に存在してるんだからもう最高なわけである。アマテラスはもちろん引きこもってるわけである。
 ここらへんのわくわく感はアメコミのクロスオーバーのまさにそれ。アラン・ムーアの「リーグ・オブ・エクストラ・オーディナリー・ジェントルメン」+「トップ10」といった趣で、最近だと屍者の帝国を楽しんだ人ならこの感覚は何となく分かると思う。もしくは平野耕太のドリフターズでもアベンジャーズでも何でも良いけれど、ありえない世界が交差する感覚はとっても楽しい。

 そして前作ジャバウォッキーと同様、久正人に異形溢れるこの手の伝奇ものを描かせるとめっぽう上手い。例えば現在連載中のものだと月光条例なんてエリア51と非常に近い構造を持つ漫画なのだけれど、そのわくわく感はエリア51とは比にならないと私は思う。
 とにかく久正人による既存のキャラクターの料理の仕方と絡ませ方がめちゃくちゃにおもしろいのだ。しかもハチャメチャなキャラクターの改変の中でもその本質はしっかりと感じられるわけで…。だってサンタクロースがチリソース大好きなリトルグレイに服を盗まれるなんてユーモア溢れる物語が、あの子供心を揺さぶられる涙ほろりなオチに帰結するんだぜ。そうなんだよなあ、子供がプレゼントを受け取る時サンタはもういないんだよなあ…。また白雪姫と人魚姫のクロスオーバーなんてスノーホワイトが裸足で逃げ出すくらい素晴らしい白雪姫の語り直しだった。

 そんな濃すぎるほどの世界観の中で、マッコイという可愛くもハードボイルドな主人公が図抜けて魅力的なのも何気にすごいよね。彼女もまた相当悲惨な過去を背負っているようで、色んな事件と関わりあいながら本筋も少しずつ進んでいく。アメコミの皮を被った浪花節なストーリーテリングは実に切ないし、合間合間に挟まれる「メェェェリィィィィィクリスマス!」なサンタクロースや最速のモンスター決定戦グレート・ゴールド・ラン・レース(我が日本からはターボババアが出場笑)なんてコメディも素敵で楽しい。そしてくとぅるんや荒野の七人ver七人の小人のような膨大な小ネタの数々…。いやぁ、これはたまらない!
 また久正人はアメコミにも造形の深い人で、マイク・ミニョーラよろしくな絵柄(本人によるとフランク・ミラーのパクリらしいが笑)と切れ味鋭い表現はちょっとシビれる格好良さ。ジャバウォッキーの時よりも絵柄はさらに簡略化されていて、より白と黒のコントラストは鮮烈になっている。

 そういう絵柄や物語の作り方等、他の漫画では体験できない作品だと思うので一読をおすすめ。好きな人は強烈にハマるはず。そもそも小説書く人含めて日本でこういう伝奇クロスオーバーに長けてる人なんてめったにいないよなあ。アメコミ好き、屍者の帝国のような歴史再編SF好き、ラヴクラフトのような怪奇好き、ここらへんの嗜好をお持ちの方々はぜひどうぞ。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-10-21 17:33:10] [修正:2012-10-21 17:33:31]