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 入水自殺しようとしていた田坂伝八郎は、ちょうどその場面に出くわした江戸の浮世絵師・国芳に命を救われる。国芳の弟子「伝八」として浮き世を生き直す彼であったが、その背後には暗い過去が潜んでいるようで…。

 正直期待してたのとは違った作風で、あんまり心底生きている江戸を感じられたわけではなくて…。やはり杉浦日向子やもりもと崇に比べると、どこか表層をなぞっている感じ。
 何といっても皆キャラが立ち具合がものすごいよなあ。国芳は最高に男気に満ち溢れているし、パトロンの梅の屋の旦那は憎いほど出来る男だし、売れっ子大夫は女郎とは思えないほどの風格で、弟子達は皆しがらみなんてないとばかりに浮き世を楽しんでいる。あんまりにも誰もが格好良すぎてぼんくらな私には少々眩しかった。とはいえとても面白い作品だったことは確かで。

 結局この漫画が試みていたのは、国芳の世界を漫画の中で表現することだったんだろう。その豪胆で奇想に満ちた浮世絵の一端であったり、国芳のあけっぴろげな精神性が感じられる物語であったり…。とにかく浮き世を楽しみ、生きたいように生きる彼ら。それはファンタジーなのかもしれないけれど、確かに私が国芳の絵から感じたものがあったように思う。これが国芳なのだ。
 火消しの場面の壮大さや綿密に描かれた刺青の男には国芳の浮世絵の迫力が垣間見えるし、国芳が巨大な鯨とちっぽけな二天様を描く場面なんて物語の重なり方も含めて本当にしびれた。また岡田屋鉄蔵の描く男女は色っぽいよねぇ。このからっとした色気はやはり本業のBLゆえなんだろうか。

 そんな国芳ワールドを存分に楽しんだのだけれど、やはりここで終わるのは惜しいよなあ。いや、物語としてはきっちりケリはついているしここで終わるべきなのかもしれない。でも1巻のみにも関わらず、この少なくはない登場人物達にここまでキャラを立たせちゃってるのは罪深いですよ岡田屋先生笑。それゆえに、何か妙な消化不良感に悩まされることは保証します。

 あと私はこの漫画を読む前に国芳関連の画集等を2冊ほど読んだのだけれども、いやぁこの人はすごいよ。無残とか、エログロとか、奇想とか、そんな現代のサブカルに片足突っ込んだ人たちにはたまらないものがあると思う。というか多分そんなぼんくらな私たちの祖先の一人が国芳御大。「ひらひら」とセットでおすすめ。

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[投稿:2012-11-15 00:38:55] [修正:2012-11-15 00:40:09]