「とんすけ」さんのページ

総レビュー数: 2レビュー(全て表示) 最終投稿: 2006年09月25日

[ネタバレあり]

志の高い作品である。
気弱でひ弱で、力を切望していただけの屈折した青年が、まさに鬼神のような殺人鬼に出会ったことで運命を絡めとられ、自身もいやおうなく大量殺人鬼へと変貌してゆく。
そして並行して現れる巨大生物。この異質な二つの主人公たちが、ゴミクズのように人を殺してゆく中で、おそれる人々、喝采を送るものたち、殺人鬼の親、総理大臣、アメリカ大統領、熊打ち名人、その存在を肯定し生を肯定したことで、孤立した彼ら2人に取り込まれて運命を共にする悲劇の女性が、様々に絡み合って、見たこともないスケールに物語は成長してゆく。
凄まじいドライブ感と綿密な描き込み、濃く深い台詞の数々があいまって、深みへ深みへと読み手を巻き込んでゆく。飛ばしているのにけしてかき飛ばしてはいない、この力量はどうだろう。
感嘆し、嫌悪し、疑問符に襲われ、深く頷き、そして感動、また嫌悪。
自分の中の様々な感情と言葉が次々引き出されていく快感と疲労を存分に味わわせてくれる。
漫画という表現文化にはこれほどの力があったのかと驚嘆させられた。過剰なほどの思想があり、そして時を止めるような詩情があり、何度も記憶に襲い掛かる「ゆるくない」ことばがある。
強引で残酷で美しい作品だ。
お勧めはしないが、漫画好きならぜひとも「読むべき作品」である事は間違いない。
それにしても、モンとマリアの連射ダンスシーンの美しさは、特筆に価する。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2006-09-25 23:37:28] [修正:2006-09-25 23:37:28] [このレビューのURL]

難しい。桜の花びらで埋め尽くされたような美しい池にこの点数を放り込むのは実は気がひける。
でも自分の中にある、ある抵抗感がどうしてもいい点数を与えてくれない。
まず、絵。コミックとは絵とストーリーで両輪だが、今の時代にこの絵は辛かった。ストーリーとのマッチングを考えれば問題ないのだが。あと、桜の国、で、ふらり買い物にでた父親がそのまま長距離バスでヒロシマにでて泊まるといういきさつについて家族が大騒ぎにもならない非常識さが日常漫画としては大きな穴に見える。
なにより、「死んでしまえと誰かに思われた傷」がどうしても納得いかず誰もそれに目を向けようとせず語らないヒロシマの人の悲劇。それはわかる。自分たちがもってしまった差別感へのくやしさもわかる、つもりだ。でも、当時、意地悪く言わせて貰えば、日本もアメリカも戦争に参加している国々は皆、どこかの国の顔も知らない誰かに対し間接的に「死んでしまえ」という姿勢でいたはずなのだ。それを、「信じられない事、向けいれられない事」として描くという姿勢に、ある種の抵抗を感じずにはいられなかった。自分の国の兵隊を、勝ってきてくれと旗を振った時点でみなが間接的に加害者であった、それがすべての国にとっての戦争であったと思うから。

ナイスレビュー: 4

[投稿:2006-10-15 19:10:19] [修正:2006-10-15 19:10:19] [このレビューのURL]