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7点(レビュー数:1人)

作者クリストフ・シャブテ

巻数1巻 (完結)

連載誌海外作品:2010年~ / 国書刊行会

更新時刻 2011-09-27 17:30:26

あらすじ 事情を抱えて港町に流れ着き、水夫の職にありついた男は、週に一度、荷物の詰まった箱を沖の灯台まで運ぶ仕事を命じられる。無人と思しいその灯台には、生まれてから陸の世界を知らずに暮らす者がいることを知らされる。「ひとりぼっち」氏と呼ばれる灯台守に対し、同情と共感が混じった思いを水夫は抱き始める。
沖の灯台でひとり、想像力を羽ばたかせる「ひとりぼっち」氏の秘やかな楽しみとは……?
沈黙の余白、黒い言葉、多彩なグラフィックが目くるめくバンドデシネ作品。

備考 国書刊行会「BDコレクション」第二弾。
連載開始年は分からなかったので日本での発売日を記入した。分かる方は修正お願いします。

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ひとりぼっちのレビュー

点数別:
1件~ 1件を表示/全1 件

7点 booさん

国書刊行会BDコレクション第二弾。

モノクロのバンド・デシネを紹介するというおもしろい企画がこのBDコレクション。
イビクスではグラデーションのかかった淡い白黒、アランの戦争では過去を想起させるセピア色、そしてこのひとりぼっちでははっきりとした白黒とそれぞれに特徴があって興味深い。

かもめが海の上、そして灯台の周囲をじっくりと飛び回る場面からこの物語は始まる。岩礁の上に建った灯台に一人で暮らすひとりぼっち氏、彼と外界をつなぐものは週に一度食料を運びに来る船のみ。その船とさえ関わろうとしない彼はまさに世界から孤立している。
ひとりぼっち氏のたった一人の友達は金魚、そして彼の唯一の楽しみは辞書を落として偶然見つけた単語を想像する遊び。この隔絶した世界で意外と幸福そうなひとりぼっち氏の日々、しかしいくつかの切欠がその世界を…。

音が、台詞がとても少ない。かもめが飛び、船が波を切り裂き、ひとりぼっち氏は釣りをする。呼吸音すら場違いに感じられて、ふと読んでいる時息を押し殺している自分に気付く。
上手いと言っていいのだろうか、独特で魅力的な絵であることは間違えない。

「BOOM」

灯台の静けさが辞書を落とす音で破られる。その音と共にひとりぼっち氏は誰知らず一人夢想の旅に出る。
ジョギング、ファルス、紙吹雪、オーボエ、キノコ…彼が想像するものは私達が知っているものとかけ離れていてこっけいに感じられる。彼の想像力がたくましいわけではない。想像力とは知れば知るほど無くなってしまうものだ。だから世界と隔絶したひとりぼっち氏は誰よりも想像の地平が広い。

その奇妙な幸福は知ることによって変質する。
「孤独」という言葉を辞書で見た時、ひとりぼっち氏は理解できただろうか?私はそうは思わない。そんな概念は彼にはなかった。なかったのだ…。

知恵(この作品の場合知識と言い換えてもいい)が楽園からの追放、脱出につながるというのはアダムとイヴを髣髴とさせる。あの神話が何を示唆しているのかは知らないが、「ひとりぼっち」では恐らく人間として前向きなものと捉えられるだろう。

しかしそれでも尚、哀しすぎるハッピーエンド。ハッピーエンドと思いたい。
ひとりぼっち氏は金魚を海に逃がした。広い世界を知ることを願って。金魚は海で生きていけるのか? 彼が世界に蝕まれないよう切に祈っている。

読み終わったらため息が出ることは保障します。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-11-01 01:33:51] [修正:2011-11-05 01:32:43] [このレビューのURL]


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