「yosamu88」さんのページ

総レビュー数: 3レビュー(全て表示) 最終投稿: 2013年08月20日

[ネタバレあり]

 少し前に読破しました。長文です。すみません。
 

 『うしおととら』、以前より「名作漫画」として名高い作品ということは聞き及んでいましたが、正直なところ、第一巻を読んでの感想は「そこまで言うほどか?」。

 絵が漫画のすべてではないことは承知しているのですが、それにしてもかなり荒いし(鬣に隈取り、縞模様というとらのデザインには凄い美学を感じましたが)、そもそも作風があまりに説教臭い。熱いというか暑苦しく、古臭い。読者の思い出補正+いくつもの作品へ影響を与えた妖怪バディものの先駆けというだけで、過剰な評価を受けているのだな……と、冷めた目付きで一巻を置きました。

 今思い返せば、早急すぎる判断だったと思います(言い訳をさせてもらえるなら、余計なことを考えずに作品と触れ合える少年時代に読んでればこんなことは……!)。

 おカネがもったいないし、買った分の巻数だけは読んでしまおうと、気乗りしないながらも続きに手を伸ばしてから、二巻、三巻……あれ?

 エピソードが積み重ねられ、物語が動き出してゆくとともに、気づけば、荒いだけと思っていた絵から作者の思いと息遣いを感じ始め、少しずつ気持ちを掴まれていきました。そして、迷いながらも途中購入した中盤からは自分でも制御できないくらいに、読み進めてゆくスピードがどんどん加速してゆき、気づけば最終決戦へ。

 ……最初の巻で切らなくて、本当に良かった。

 少なくとも自分にとっては、久々に、「堂々完結」という字のふさわしい、一個の少年漫画を見せてもらった気がしました。

 涙もろいなどと言う自覚はなく、むしろ泣ける泣けるというような言葉に対して斜に構えてしまうような性分なのですが、比喩でなく、悔しいながら泣かされてしまった。各エピソードにも名場面が目白押しですが、最終決戦に入ってからの勢いが物凄い。中でも32巻・33巻は反則です。(また、バトル漫画の常として、一般人、いわゆるモブの人々の死亡描写が派手なのも特徴ですが、一方で、そういう「普通の人々」が、精一杯前を向いて踏ん張るシーンもきちんと描かれていていたのが印象的)

 かしこぶって分析するならば、この漫画は、カタルシスを作りだすのが凄まじくうまいのだと思います。作風が合わない、面白いと思えない人も当然いるでしょう。ただし、波長が合った人、何かしら同調できる部分を見つけて読み進めることを決めた人に対しては、溜めに溜めた末の、でっかい「お返し」をくれる作品です。

 最終回を読み終わった後、最後の青空のページ及び、表紙に描かれた「うしおととら」というタイトルを見ると、熱く込み上げてくるものがありました。初め見た時はヘンテコにしか見えなかったこのタイトルが、なんとこの作品に、まぎれもない「一人と一匹」の物語にふさわしいことか。

 少年漫画であること――大切な言葉を真っ直ぐに伝えること――から目を背けずに、力いっぱい描き抜かれたこの作品へ、魂揺るがされた一人としての「10点」を捧げたいと思います。


 *追記
 個人的な好みについて言わせてもらえれば、あちこちに見られる妖怪というモチーフへの愛にニヤニヤしました。字伏や一鬼、一角、山魚など、オリジナル妖怪(山魚は読者投稿ですが)が多く、また既存の妖怪に対してもアレンジを加えてある本作ですが、少年漫画的世界観との絡ませ方、また、なまはげ伝承や「しっぺい太郎」伝説を、テーマのある短編のモチーフとして落とし込む手腕には、作者の確かなこだわりを感じました。「白面の者」の啼き声が『山海教』における九尾狐の記述+本当の願望の発露という風になっていたり、とらの異称の一つに正体不明の妖怪である「わいら」を持って来たり、『稲生物怪録』の化け物たちをこの時期に採用するなど、知識があれば唸らされる小ネタが随所にあるのも素晴らしいです。(後で知ったのですが、作者はかの妖怪研究家・多田克己の友人でもあるらしい)

ナイスレビュー: 2

[投稿:2013-08-20 03:16:39] [修正:2013-08-20 03:21:17] [このレビューのURL]

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