「ハカタメンタイコ」さんのページ

総レビュー数: 7レビュー(全て表示) 最終投稿: 2006年10月28日

4点 DEATH NOTE

この作品はまずその突飛で過激な設定に目を奪われがちですが、読んでみたらそれほど真新しい要素はありません。

そう、例えるならこれは「麻雀漫画」ですね。

麻雀漫画というのは、麻雀という決められたルールの中で、自分の手を完成させたものが勝ち、というゲームを描くものです。一牌拾っては、一牌捨てる。手の内をさらしながら、互いの手の内を読みあう。読み合いが高度になればなるほどギリギリの戦いになり、読者は「よくここまで読むよなあ」と感心する。

互いが自由に動けない制約の中で、より効率のよい方法を探して相手に勝つ、というのはゲームやスポーツ全般に共通するところです。この作品では、それが人を殺すデスノートであるという点だけが特異で、あとは普通のゲームと一緒ですね。
その中でも、月、Lともに相手のアガリ牌を抱え、いずれそれを振り込むかもしれないという緊張感の中でなんとかしのぎ合うという心理戦の構造は、数あるゲームの中でも特に麻雀にそっくりだといえます。

とはいえ、前半はそれでも非常に楽しかった。「作者に都合がいいよなあ」と思いつつも、ルールはよく練られているし、互いの爆弾牌を大量に抱えるド素人・弥が卓につくことで、より緊張感のある麻雀漫画になりました。
そう、麻雀は完璧と不安定要素が混じるから面白いんです。

だからこそ、後半はみなさんが言うとおり「なんだかなぁ」です。ルールだけが一人歩きし、ゲーム性もなくなり、ストーリーのの破綻を補うように次々と都合のよすぎるキャラが現れる。
もう麻雀じゃなくなっちゃいました。前半とは全然別の物語と言えるでしょう。

というわけで、麻雀漫画が麻雀漫画でなくなったとき、この作品はつまらなくなったということです。

ひとつ加えるとして、この作品は人が死にすぎる。
別に倫理的なことは元々ストーリーに絡まないのでそれでも結構なんだが、こうした「無理やり設定」の数々が世界観の薄っぺらさを強調してしまっている。特に「女子アナの親衛隊」なんて設定が出てきたら、もうまじめに読む気がしなくなる。こういうのをストーリーの暴走というんだろうな。

ナイスレビュー: 3

[投稿:2006-10-28 02:44:20] [修正:2006-10-28 02:44:20] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

競馬漫画と言われるが、「ホームドラマ」と言ったほうがしっくりくる。主題は間違いなく人間ドラマであり、テーマは恋愛だけでなく親子、兄弟、友人といった人間同士の関係、心情の揺れ、人格の成長といった点にも及ぶ。
そして凡百と違う最大の点は、そのさまざまな人間ドラマを、どれかにだけ偏らずすべてをきちんと描ききっている点だ。

例えば一般的なヒューマンドラマは、ストーリーの進行とともにどれかひとつに重心が移っていくことが多い。次第に恋愛中心になったり、友情ドラマになったり。そしてだんだんに消えていくキャラがいて、最終回にだけ再登場したりする(笑)。
ところが本作では、主人公の成長、とりわけ恋愛と仕事での成長を中心にすえつつ、両親が最後まで一定の距離感で登場する。青春モノで両親といえば、たいてい主人公の成長に立ちはだかる最後のカベであり、乗り越えた後は切り捨てられるのが普通だが、本作は家族の絆は最後まで保たれる。そして両親同士の葛藤なんかも忘れずに描かれていたりする。

こうした様々に織り成された人間関係は、全体としてお互いに邪魔しあうこともなく、無駄な部分もない。ホームドラマとしては間違いなく一級品であり、作者の「心配り」には関心せざるを得ない。

こうした人間ドラマが縦軸とすると、競馬は横軸だ。だがこの横軸もハンパな描き方ではない。
生産者の世界、競馬関係者の世界がどれも徹底したリアリティで描かれている。作者のこだわりだろうが、とにかく「そこまでこだわるか」と思うほどの描きこみである。ほのぼのしたトーンの中にも厳しい生産界の状況をきっちり描き、「北海道」「牧場」「馬」といった言葉に都会人が抱く甘いロマンははっきり否定される。これがストーリーを地に足が着いたものにしている。

登場する牧場や競馬関係者、馬、レースにはだいたいモデルと思われるものがあり、競馬ファンにとってはそれを探すのもまた楽しい。最後の有馬記念は、あのレースを参考にしたとしか思えないし(笑)

ちなみに後半のヒロインについては議論があるところだが、自分は肯定派。たしかに当初の魅力はなくなっていくが、作者はそれでも徹頭徹尾、ずっと同じ時間が流れていくことに執着していたのだと思う。競馬漫画でなくても描けた人間ドラマを、あえて競走馬生産という舞台で描いたのは、次代に血をつないでいくという競馬の世界に、家族の姿を重ねたかったんじゃないだろうか。

そうなると、やはりヒロインは少女から母に変化せざるを得ないわけで、そうじゃないと命をつなぐ物語にならない。このストーリーでは、ヒロインはああなるしかなかったとも言える。まあ、恋人が母親になり、昔の魅力がなくなっていくという過程もリアルといえばリアルである。

とにかくあらゆる面においてリアルにこだわった作品であり、ほのぼのしていながらも下手な夢は見させてくれない。そこを楽しめれば最高の一作といえるだろう。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2006-10-28 01:37:38] [修正:2006-10-28 01:37:38] [このレビューのURL]