「ib」さんのページ

少年時代のストーリーのみで終了したら、美しい余韻を残して終わる、オリジナリティの高い傑作になったと思うのですが・・・
ショパンコンクールからの展開が平坦で、面白みにかけるのが残念。

小学生のカイの生き様は、アカデミックな教育に基づいて弾くピアノがすべてではない、ということを読者に教えてくれます。
それなのに、成長することでなぜか、アカデミズムの頂点であるコンクールへ身を投じてしまいます。この心の移り変わりが解せないのです。

しかも、審査員の審美眼そのものに疑いを持つ視点でストーリーが描かれていきます。つまり、ほめられてもあまりうれしくない審査員からいい点をつけてもらうためにがんばるという、その価値観一点にストーリーが集約されていってしまうので、そこで結果的に誰が優勝してもそこから得られるよろこび、感動は底が知れているのではないか、という気がするのです。

それと、話の導入部には中心にあった神秘的、超自然的な要素が、後半まったく出て来なくなってしまうのも、何かアンバランス。

これは僕の勝手な妄想ですが、カイは夜のお店で演奏する経験を積みながら、なぜジャズに興味を持ったりせず、クラシックにこだわったのでしょうか?
自分の好きなように自由に演奏する、そしてプロとしてお金を稼ぐために演奏する、この動機に突き動かされているカイなら絶対に、クラシックではなく、ポピュラー音楽、とりわけジャズの世界に転向していくのが自然な気がします。

そうしてクラシックのコンクールを目指す修平と違う道を歩みながら、数奇な運命から二人が交差し、ぶつかり、支え合っていく展開になったら、もっと奥行きがあったし、天下一武道会的な話で小さくまとまらずに済んだと思います。

初めのアイディアがとても新鮮なのに、進むにつれてジャンプ的な一元的価値観に持ち込まれてしまうのは、マンガ全般によくある傾向ですね。
それでも本作は、人間がよく描けているという点では、秀逸な方の作品だと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-05-05 17:18:54] [修正:2011-05-05 17:48:07]