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7点(レビュー数:4人)

作者谷口ジロー

巻数1巻 (完結)

連載誌ビッグコミック:1991年~ / 小学館

更新時刻 2011-09-10 00:53:39

あらすじ 「私」と妻は、14年間タムという愛犬と暮らしてきた。老衰で寝たきりになったタムを、私と妻は最後まで見取ろうと決心する。小便を垂れ流し、点滴の栄養剤が皮下に漏れ出すようになっても、タムはがんばって生き続けた…。
作者自身の体験をもとにした作品で、子どものない夫婦と愛犬との心の交流を、愛犬が死ぬ数日間を中心に情感細やかに描き上げている。
 

備考 全5編の短編集。
1992年に第37回小学館漫画賞審査員特別賞を受賞した。
 

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この漫画のレビュー

8点 とろっちさん

動物との触れ合いを描いた珠玉の短編集。

表題作「犬を飼う」は作者の私小説的作品であり、子供のいない夫婦にとって重要な家族の一員だった
愛犬・タムの晩年の姿を描いた作品。

飼い始めの仔犬の頃はヤンチャでとてもかわいかったタム。
そんなタムも老犬となり、作中ではタムがどんどん衰弱してきます。
タムを少しでも歩かせてやろうと散歩させている奥さんに、通りがかった人が「(歩かせて)かわいそう」と
声をかけるものの、「このまま歩けなくなる方がよっぽどかわいそうだ」と心の中でやり返す奥さん。
ついに自力で立ち上がれなくなりながらも外へ出たがるタムを何とか起こし、散歩へつれていく2人。
あんなに嫌がっていた排泄物を自分の寝床にもらしてしまうほどに弱ってきたタム。
寝たきりになったタムを見ながら、「これでいいのだろうか…」と自問自答を繰り返す「私」。

「なぜ、こんなになってまで生きようとするんだ?」
身動きすらできないタムを見て、安楽死させるべきか何度も思い悩み…。
タムとは言葉を交わすことができないが故に、余計に胸が締め付けられる感覚。
「こんな思いをしてタムを看取るとは思ってもみなかった」

演出的な要素を抑えて淡々と描いた描写が、却って読者の心の奥深くまで届くような気がします。
「動物を飼う」ことの意味と意義。 飼い主として、家族としての責任、心情。
そういうのを真っ向から、しかも説教臭くならずに描き切った傑作。


そしてこの夫婦、懲りずにまたペットを飼います。 もう二度と飼わないって言ってたのに。
それが2編目の短編、「そして…猫を飼う」。
これはブサイクで警戒心が非常に強いボロ(猫の名前)が少しずつ懐き、出産するまでを描いた話。
3編目は、子猫たちを人にあげることを約束してしまったために、子猫をボロから引き離すことの苦悩、
ボロが必死に子猫を探し始める切ない様子を描いた「庭のながめ」。
4編目はさらにその続編ですが、こちらはあまりペットは関係なく、姪っ子が家出してきた話。

5編目は今までの話とは全くつながらず、雪山で遭難した男が、神の化身とも言われるユキヒョウを
目の前で見る話。
この5編目は、後の作品「神々の山嶺」に通じる圧倒的な描写力が印象的です。


生き物の生死を主に描いた話でありながら、前述のとおり過剰演出もなく淡々と描かれているため、
さほど重くもなく、暗くもなく、テンポが良くて読みやすい作品になっています。
たった5編ながらもとても読み応えのある短編集です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-09-10 00:55:38] [修正:2011-09-10 01:08:25]

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