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10点(レビュー数:1人)

作者倉多江美

巻数1巻 (完結)

連載誌LaLa:1978年~ / 白泉社

更新時刻 2009-11-25 06:39:56

あらすじ ---

備考 「エスの解放」「エムの解放」を収録。

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エスの解放のレビュー

点数別:
1件~ 1件を表示/全1 件

[ネタバレあり]

少女の精神が壊れていく様を淡々と描いた作品。
ラストも一応、少女は救われるが、あくまで淡々としている。派手な演出など一つもない。
そこに不満を感じる人も勿論いるだろうが、まあそういう人たちは
このマンガを知る機会なんてないだろうから大丈夫。

これは凄いよ。まずタイトルから、引っかかるものがある。表紙の絵も同様。
読み終えた次の日、知人に散々語ってしまった。

このマンガは「空虚」の表し方が抜群に上手い。
はじめに「淡々と進む」と書いたが、その乾いた雰囲気も「空虚」の一つだ。

線。アクがなくあっさりとしている。むしろ「頼りない」と言ったほうがいいか。
その線でキャラクターも背景も同等に描かれている。境目がない。
例えば70ページ。少女が木陰に座って少し遠くの並木を見つめている。
見つめていると遠くの木が段々と少女の顔の横に迫ってくる。
71ページになると、まるまる1ページ使って、見つめる顔と木が並べて同じ大きさで描かれる。
目は黒目の部分はあるが白い。意識がない。

精神が壊れ「現実と妄想」が混ざることを、「自分と風景」が混じることで表している。

背景。普通の少女マンガならキャラの後ろにはバラなんかが描かれるが(古い?)
このマンガでは「偏執的な線」が目立つ。
「偏執的な線」と言ったところで分かりにくいと思うので、イメージするならば
楳図かずおの「おろち」の髪の毛みたいな感じの線。

9ページ下一面の大きめのコマ。夜中、少女が悪夢に目を覚まし壁に手をついてため息をつくシーン。
真っ黒のベット、窓以外の周りの壁すべてが「偏執的な線」で埋め尽くされている。
このコマはワクがなく、どこまでもこの気持ちの悪い線が広がるようで読む側に「不安」を与える。
このワクがないことは同時に「空虚」である。
59ページの左下のコマ。普通の教室にも関わらず、天井はその
「偏執的な線」が使われている。
後ろの机に座っている人物が落書き程度の簡単な線で描かれていることも気になる。

ここのシーンで注目するところが、もう一つありそれは
少年の「横顔」である。このマンガではキャラクターが横顔になるとき、なんの脈絡もなく
目は落ち窪み、中が白くなり、口はポカンと開いて白痴のような表情をするときがある。
これは少女に限らず他の正常なキャラクターにも見える。
ここも「不安」であり「空虚」。

そして最も気に入った「空虚」は86ページ。
上のコマ、右から左まで使って一コマ。ワクあり。右端は黒で続いて少女の顔。白い。
左側全部を使った空白と一つになっている。
真ん中の段、右斜め下のコマに降りる。ワクあり。右側、黒。左、少女の白い顔。
次、本来の読み方なら左に行くべきはずだが左側にはコマがない。空白。
そのまま下、全部使った大きい一コマ。ワクなし。
右上に「おまえ」と五角形の吹き出し。振り向く少女の顔が大きく。

コマの配置、ワクの有無、空白の使い方。このページはいくら見ても飽きない。
真ん中左の空白の「本来あるべき場所に何もない」不安と
下のコマの空白の不安が繋がったときの「空虚」。

こんな凄い作品のあとに書き下ろしの「エムの解放」。
タイトルから絵柄、中身まで、ただのダジャレづくし。
倉多江美は凄い。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-06-17 00:24:26] [修正:2007-06-17 00:24:26] [このレビューのURL]


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