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7点(レビュー数:2人)

作者ニール・アダムス

原作デニス・オニール

巻数1巻 (完結)

連載誌DC Comics:1970年~ / 小学館集英社プロダクション

更新時刻 2011-09-09 12:18:13

あらすじ 宇宙の平和を守ることを使命とし、パワーリングと呼ばれる指輪がもたらす絶大なパワーで悪を挫く“グリーンランタン”と、得意の弓術で正義を貫くヒーロー“グリーンアロー”。とある事件をきっかけにアメリカ大陸横断の旅に出ることになった二人は、病んだアメリカに潜む、真の「悪」の姿を目の当たりにする…。はたして、人種差別、麻薬、環境汚染など当時のアメリカを悩ませたリアルな社会問題に、二人のヒーローはどう立ち向かうのか?デニス・オニール×ニール・アダムスの名クリエイターコンビがおくる衝撃の問題作、初邦訳でついに登場。

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グリーンランタン/グリーンアロー のレビュー

点数別:
1件~ 2件を表示/全2 件

7点 columbo87さん

 宇宙をまたにかけて戦う意志の力の使者,グリーンランタン。億万長者転じて一文無しのクライムファイター,グリーンアロー。二人のヒーローが相手取るのは一瞬で地球を滅ぼす巨大災害でも,世界制服をもくろむ悪人でもない。だがそれよりも尚手強い相手,社会問題というヤツだ。

 今でこそアメリカンコミックスには大人でも楽しめるもの,時にグラフィック・ノベルと呼ばれるような,上質なストーリとテーマ性を持った作品が増えている。だがヒーロー物はどうか?もちろん文学性,叙情性,芸術性を兼ね備えた傑作は存在する。
 しかし,悪役がいて,ヒーローがそいつらをやっつけて,話の途中で新しい敵の予感が・・・という典型的な「アメコミ」の印象は未だにぬぐえない(無理にぬぐう必要も無いとは思うが)。漫画大国の日本において殆どの人がアメリカンコミックスに見向きもしない理由にはそういった偏見や「日本の漫画が世界一」といった自尊心があるのではないかと思う。
 実際,私がひやかしにアメコミを読み始めたのは,そういった典型的な「アメコミ」を期待したからであった。しかし,蓋を開けてみれば,そこには想像を遙かに超える作品があふれていたのである。「日本の漫画が世界一」という考えはここで脆くも崩れ去ったのだった。

「グリーンランタン/グリーンアロー」もそんな一作だ。70年から数年に渡ってデニス・オニールとニール・アダムスのコンビが世に送った傑作集である。その大きな特徴は,当時アメリカ社会に渦巻いていた問題-人種問題,性差別,環境問題,ドラッグ−に,二人のヒーローを立ち向かわせたことだ。一人は宇宙の守護者,法に忠実な正義を振るうグリーンランタン/ハル・ジョーダン。もう一人は,悪を裁くためには法さえ破る,現代のロビンフッドことグリーンアロー/オリバー・クインだ。
 「社会問題にヒーローが立ち向かう」最初にこの煽り文句を見て,内容にあまり期待が持てなかった。それまでもヒーローにイデオロギーを背負わせる場面を目にしたことはあった。バットマンは国債を買おうと毎回表紙で宣伝していたし,キャプテンアメリカはアカ狩りをやっていた。結局それらと変わらないのでは?今度はカウンターカルチャーらしさを出して体制に立ち向かわせようってハラなんだろ?白人のヒーローにイイかっこさせて,まるで自分たちは加害者じゃないみたいな顔をするんだ・・・
 当初のアメコミへの評価の低さと,社会問題なんていうテーマに対するアレルギー反応とが相まって,そんなネガティブな思いがよぎったのだ。
 しかし,その予想は大きく外れた。子供向けの作品でありながら,デニス・オニールの脚本は驚くほどバランス感覚に優れ,なおかつメッセージ性に富んでいる。

「宇宙警察」グリーンランタン。法を尊び秩序の力を振るってきた彼は,権力を持った者が法を振りかざし,力無き者が虐げられる様を目の当たりにする。それでも法の正しさを信じたいと願いながら続ける旅の中で,次第に喪失していた人間性を取り戻し始める...
 今作でのグリーンランタンは酷く弱い。忠誠を誓ったガーディアンズの法に逆らった事で,力を制限されてしまうからだ。おそれを知らず力を奔放に振るっていた頃とは違う,今の彼にはあらゆる問題が困難なものになったのだ。
 旅の相棒となるのはグリーンアロー。彼は億万長者から転げ落ち,市井の問題を深く知ることになった。
 構図としては,グリーンランタンとは逆の信条を持つ彼が,物語を別の視点から捕らえる役割を果たすことになる。しかし,権威に立ち向かっていたはずのグリーンアローも,自身の権威主義的な面,アメリカ性によって打ちのめされてしまうのだ。
 麻薬依存をただ本人の弱さのせいだと断じる彼は,自分にある強さを誇示するだけの無責任な「大人」だと看破される。また,環境保護を謳うアイザックの思想に賛同するが,目的達成のために環境を傷つける武器を用いたことから拒絶されてしまう。
 性格の真逆な二人を登場させておきながら,どちらによっても勝利はもたらされない,解決も見出されない。そこにはただ問題提起があるだけなのだ。

 物語ははっきり言うとステロタイプにすぎる。当然子供に向けた物であるからしてわかりやすい対立構造にする必要があったのだろうし,70年代のコミックスの立ち位置を鑑みてもその事によってこの作品を貶めることはフェアでは無い。
 だが,そういったものを差し引いたとしても,私が真にこの作品を評価したいのは,当時の社会にあったあらゆる問題への疑いの眼差しに満ちていながら,絶対的正義を喪失したヒーロー達を描いていながら,戦いをやめないその姿が,まさしくヒーローそのものとして浮かび上がっているからなのだ。この物語がなおも子供心を離さないのは,その人間らしい弱さと強さが,新しいヒーロー像として成立しているからに違いないのである。

 デニス・オニールはこの作品によって,子供達に社会のジレンマについて考える機会を与えたいと願っていた。そして,所詮子供向けと軽視されていたヒーロー達にそれが可能だと確信していたのだ。
 然り,ヒーローが担うべき役割は夢と希望を与える事だけではない。どうしようもない現実に立ち向かう勇気を,現実を打開する力さえも時に彼らは与えてくれるのではないだろうか。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-09-09 12:34:56] [修正:2012-03-21 22:33:46] [このレビューのURL]

7点 booさん

 現在の大人でも楽しめる“シリアス”なアメリカン・コミックの流れを作ったのはDKRやウォッチメンとはもはや常套句と化したくらいよく言われることで。
 でもそれらは突然変異的に現れたわけじゃあない。ジャック・カービーとスタン・リーのX-MEN、そしてこのニール・アダムスとデニス・オニールのGL/GAなどの先駆けがあった。
 
「怪物やマッド・サイエンティストばかりが悪ではない…やっと気付いた」
 
 X-MENのさりげなさとは違って、特にこのGL/GAはヒーローを正面切って社会問題に向かわせたという意味で、より後の作品に与えた影響は強かったかもしれない。上の台詞が示すように、何せこの作品でグリーンランタンとグリーンアローが立ち向かうのはただの“悪者”ではない。薬物問題、人種差別、環境問題、エコテロリスト、ネイティブアメリカン問題、など“敵”が明確には見えないものばかりだ。

「もはや世界を白と黒に分けることはできない。…中略…グリーンアローの言うとおり、もはや権力が正しいとは言えない世の中だ。ならば何が正しいんだ。」

 GL/GAが生まれた1970年代というのは様々なことで世界が揺れた時代だった。もはやかつてヒーロー達が第二次世界大戦で活躍を見せていた時代のような一方的な正義と悪では、大人の読者は納得しきれなくなっていたのだろうか。そう、もはや権力が正しいとは限らなかった。
 そんな激動の社会の中に、優等生で生真面目なグリーンランタン(ハル・ジョーダン)とシニカルな自由主義者であるグリーンアロー(オリバー・クイーン)という、正反対のコンビが放り込まれる。

 彼らは悩み、そして力では本質的な社会問題の解決など出来ないことを思い知らされる。それでも、どんなに辛くても二人が目をそらすことはない。だからこそ彼らはヒーローであり、目をそらさないことの大事さを教えてくれる。目をつぶってしまっては何も見えないし、先には進めないのだから。そんな葛藤を受けての回答が本作でも随一の傑作である「たった一人でなにができる?」でありウォッチメンの結末でもある。
 同時に連載ものの限界も所々見せてしまってもいる。彼らはヒーローをやめるわけにはいかないし、どこかで話に救いをもたせないといけないわけで。でもそもそも子供向けとされていた作品ということを考えれば仕方がないし、だからこそ読みやすいし重くなりすぎないのだ。

 それぞれの短編で異なったテーマが鋭く掘り下げられている一方で、シリーズを通して進んでいくサイドストーリーもある。例えばハルとキャロル、またはオリーとブラックキャナリーの関係性は少しずつ変化していくし、オリーの怪我は後の短編に影響を与えていく。
 そのようなサイドストーリーと何よりハルとオリーという正反対の、正反対ゆえの魅力的なコンビがこのシリアスな話の内容を明るく彩る。二人の珍道中という面でもすごく楽しいし、何といってもオリーがかっけぇ!本当にいいキャラクターしてるよなぁ。大好きになっただけに、今度のリランチで若々しくなったのはちょっと残念だった。髭もないし…。

 GL/GAはアメコミの記念碑的な意味でも、また現在の視点で見た単体の内容をとっても間違いなく傑作といえる作品。二人が立ち向かった問題は今でもなくなったわけではないのだから。薬物問題なんかは言うに及ばず、エコテロリストの話で、どっかの某対捕鯨テロリストの姿が浮かんできたのは私だけではないと思う。
 出来ることなら中学生くらいの子どもにも読ませたい作品なんだけどなぁ、今のアメコミ事情を考えると現実的ではないのが残念な所。学校の図書館に一冊くらい置いておいてもいいんじゃない、なんて思うのだけど、どうだろう?

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-09-20 12:47:15] [修正:2012-01-22 22:10:33] [このレビューのURL]


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