ホーム > 不明 > 海外作品 > アランの戦争――アラン・イングラム・コープの回想録

7.5点(レビュー数:2人)

作者エマニュエル・ギベール

巻数1巻 (完結)

連載誌海外作品:2000年~ / 国書刊行会

更新時刻 2011-09-27 17:39:28

あらすじ ある日、ギベールはひとりのアメリカ人、アラン・イングラム・コープと出会い、親交が始まる。アランの戦争体験を聞いたギベールはBDにすることを申し出る。ギベール30歳、アラン69歳のときだった。
生涯を大きく決定した戦争体験という青春の日々――訓練で出会った戦友たち、フランス・ドイツ・チェコへの行軍で知り合った人びととの交友――を振り返るアランの人生が、淡々と、ユーモラスに彩られていく。
節制された筆致で、戦争のなかの日常の記憶がアランの声とともに再生し、見事に結晶化された、戦争バンドデシネ作品の傑作。

備考 国書刊行会「BDコレクション」第三弾。

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アランの戦争――アラン・イングラム・コープの回想録のレビュー

点数別:
1件~ 2件を表示/全2 件

7点 s-fateさん

簡単に言うと、ある爺さんの半生を綴った話です。たまたま青年期に戦争があったため戦時の話と戦後も軍属で働いていたりと軍隊生活の話が多くなっています。しかし、血なまぐさい話はほとんどなく、人との出会いがメインでホントに普通の人の視点の話です。結構細かいところは細かく描写されており、読み応えがあります。人ひとりの半生ですからね。
少なくともサラッと読めるものではありません。
 絵は絵本で見たようであり、精緻な印象を与える部分もあり、日本のマンガではちょっと見ないタイプです。イラストでは見たことあるかな。ただ、四角いコマ割りのみで淡々と話を進める部分などは、小林源文さんの初期の劇画「黒騎士物語」とか「カンプグルッペzbv」などの戦況を説明する部分に似ているなと思いました。
 普通の人と言っても国をまたいであちこち行っているし、出会った人も国をまたいで色々な人がいます。本人も言っている通り金銭的には成功していません。しかし振り返ってみると結構波乱万丈な人生でした、という感じです。結構考えさせられる作品です。
 
 

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-01-02 21:02:06] [修正:2012-01-02 21:14:43] [このレビューのURL]

8点 booさん

うーん、これは良かった。間違いなく傑作。
アラン・ムーア作品に代表されるような海外の優れた作品は日本の漫画が1番なんて幻想をぶち壊してくれる。アランの戦争もそんな作品の一つ。日本の中だけに鎖国しているのはもったいないです。

バンドデシネ(BD、ベーデー)はフランスの漫画のことで、描かれた帯という意味。フランスの第九芸術とされ、メビウスやエンキ・ビラルは大友克洋や荒木飛呂彦を通して日本の漫画にも大きな影響を与えている。
BDは日本でもユーロマンガを皮切りに2年前くらいから地味に盛り上がっていて、例えばこのアランの戦争は国書刊行会のBDコレクションというおもしろい企画の第三弾にあたる。

アランの戦争は表題にあるようにアラン・イングラム・コープの回想録だ。誰よそれ?っとなるかもしれない。それは当たり前で、アランは有名人でも何でもなく至極普通の人だから。
タイトルを見ると誤解しそうだが、戦争駄目とかそういう作品ではない(そもそもアランは直接的な戦闘はほとんどしていない)。アランが戦争に行き、戦友や戦争で行った地域の人々と交流したり、通信兵として学校で勉強したり、戦車の掃除などの行軍中のくすっとくるエピソードがあったり、帰ってきて仕事を探したり、結婚したり、何が起こるわけでもなく時系列にそってただただアランの人生が綴られていく。
アランにとっての戦争ははだしのゲンほど悲惨なものではなかったにしろ彼の人生に確実に影響を及ぼした。彼の一生は必ずしも順調ではなかったようだ。

ここで語られる話はほとんどが大きな意味を持っていない些細なことで、別にストーリーがあるわけでもない。しかしそもそも人生で起こるほとんどのことは些細なことだし、人生にストーリーなんてないのだ。

「存在を証明する絵画を描くためには人生のどんな瞬間も思いだされる価値があると思わないかい?」アラン・イングラム・コープ

作者のエマニュエル・ギベールの仕事はすばらしい。余計な装飾なんて全くなく、ここにあるのはアランの生、それだけだ。
そして抒情的な美しい絵。何でもない風景になぜかほろっときて驚いた。この作品で彼は水彩画の技法を使っていて、これまたすごく良いのだ。youtubeにアップされているし、アランの戦争でググれば見れるはずなのでぜひ見て欲しい。井上雄彦が筆を使ったことが話題になっていたけど、世界は広い。

一人の人間の生を描いた作品としてアランの戦争は屈指の出来だろう。それをどう受け取るかは読む人が決めることだ。誰かの人生というのは他人のためにあるものではないのだから。人生は無意味の連続で、そこに価値を作るのは私達次第、つくづくそう思う。
アランは歴史的に偉人ではないかもしれないけど、とても魅力的で素敵な人だった。これからも長く読み返すだろう傑作。
ぜひアランの人生を体験してみて欲しい。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-09-28 19:03:53] [修正:2011-09-28 22:53:22] [このレビューのURL]


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