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総レビュー数: 5レビュー(全て表示) 最終投稿: 2011年07月15日

10点 嘘喰い

ギャンブル漫画、頭脳・心理戦漫画の代表格といえば、巨匠福本伸行による『カイジ』や『アカギ』、甲斐谷忍の『ライアーゲーム』などを想起する者が多いだろう。

この『嘘喰い』もそんなギャンブル漫画の一角を担う存在であるが、その質に比して、どうにも世間の認知度が低いようだ。
かく言う私も『カイジ』や『ライアーゲーム』が好きでずいぶん前に読んではいたが、この『嘘喰い』はノータッチだった。
頭脳戦漫画が好きな者の一人として気になってはいたのだが、なぜか食指が動かずにいた。どうにも『カイジ』などとは一段落ちる作品だと思い込んでいたようだ。
ところが先日何の気なしに本作を手に取り、読んでみたら見事にハマってしまったというわけだ。

結論から言えば、この『嘘喰い』は現在までに描かれたすべてのギャンブル漫画の最高峰に位置する作品である――と私は思う。

まず、登場する全てのギャンブル、ゲーム、勝負内容の質が異様に高い。どの勝負も練りに練られて計算し尽くされたものであり、「そこまで計算して描いてたの?」という驚きが一つや二つではない。
ストーリー展開や登場人物の描写も無駄がない。
50巻近くもこれほどのクオリティを維持して執筆し続けている作者は、正直化物じみているとさえ思う。
もちろん、章によって多少のムラはあるのだが、つまらない勝負などは一つもなく、どのエピソードも一定以上の質を保っている。
勝負の流れは非常に巧みで退屈させず、当初はルールの枠に収まっていたものが次第に多面的になってゆき、勝負開始時からは想像もできない展開になってゆく様は圧巻だ。

この作品の革新的な点は、何といっても「賭郎」の存在だろう。
たとえギャンブルで決着がついても、その場で敗者が「暴力」を行使しその結果自体を反故にする場合がある。ギャンブルで勝つということは、その結果を通すだけの「暴力」が必要になるということ。
『嘘喰い』は、その「暴力」の存在を「当たり前」として、一つの「機関」として描いた初の作品である。
立会人という魅力的な人物たちも相まって、「賭郎」は本作において鮮烈な存在感を放っている。

格闘、アクションについては否定的な意見があるようだ。
絵は綺麗で画力も高いのだが、画面がごちゃごちゃしており何が起きているのかわからない場面が多々あるのが原因だと思う。
ギャンブル勝負とは違い、勢いで押している部分が多いというのもあるだろう。
意思を通すために必要な「暴力」をテーマの一つとして掲げているであろう作品だから格闘描写も当然描くべきという考えが作者にはあるのだろうし、作者として多大な労力を費やす必要のあるギャンブルパートの箸休めも兼ねているのだろう。
本作のストーリーの流れとして、ギャンブル→アクション→ギャンブル……と交互に進んでいることからそれが伺える。
そりゃギャンブルだけをこのクオリティでノンストップで描けるわけないって。
といっても、號数という立会人のランク付けなどの少年誌的な人気要素もあり、立会人のキャラも濃いので格闘パートもそう退屈するものでもない。
どの立会人も変人ばかりなのだが仕事はキッチリこなすし、何より「メチャクチャ強い」のでかっこいい。男心をくすぐること間違いなし。

科学や医学ネタを頻繁に入れるのも特徴の一つだろう。
多くのエピソードに、主にギャンブルを有利に進める特殊能力としてそういったネタが出てくる。

うだつの上がらない男だった梶が身近で獏を見て成長してゆくのも面白い。
ところどころに挟まれるギャグも作者のセンスが光っている。

ただ、複雑なエピソードが多く、単行本で一気に読まないと訳がわからなくなってしまうことが多いと思う。
入り組んだ心理戦が多く、人によってはわかりづらいものもあるだろう。
恐らくそこがネックでドラマ化などのメディア展開がされていないのだと思う。この内容は文字で読める漫画ではないとキツい。
そのあたりの読みやすさは『カイジ』などに軍配が上がるだろう。最近のカイジは見る影もないが……。
カイジなどに比べ世間の認知度が低いのは面白くないからではなく、むしろ頭脳・心理戦が上質すぎるからこそ、ある種の玄人好みする内容になってしまっているのが原因なのだ。
頭脳戦が好きな者にとっては垂涎の内容。面白さは一級品である。

現在クライマックスのゲームの真っ最中だが、いまだにクオリティは衰えていない。作者にはこのままの質を保って最後まで描き切ってほしい。

最後に梶ちゃんの見せ場もあるよね?

ナイスレビュー: 0

[投稿:2017-11-26 10:34:36] [修正:2017-11-26 10:37:58] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

二日かけて一気読みしてしまう程には面白かった。
当方デスゲーム系漫画にハマっており、最近よく読むのだが玉石混淆なそれらの中でもこれは良作の部類。

だいたいのゲームが一巻の中で終わるテンポの良さが素晴らしい。
ただ、ゲームの途中に「特別編」と称して別のゲームを挟むのはいただけない。
「特別編」自体はわざわざ「特別編」と冠する必要はあったのか?と思う。普通に本編に絡む話だし。
アリスがいないからかと思えば、アリスのいない「ハートのJ」は本編扱いだったような。
また、アリスの内省、葛藤描写が少々クドい。いちいちウジウジしすぎ。ようやく吹っ切れたかと思えばまたウジウジの繰り返し。
そしてアリスが「すうとり」以降ほとんど出てこないのもマイナス。「スペードのK」は明らかな失敗エピソードだった(後述)。

福本伸行のギャンブル漫画に端を発するであろうこの系統の漫画のストーリーのツボをソツなくおさえており、作者の技量の高さ、器用さが伺える。
……のだが、キッチリおさえるべき点をおさえられていない粗も目立つ。お約束がわかってないなあという印象。

その最たるものは、上述の「スペードのK」戦だろう。次点で「クラブのK(すうとり)」。
まず「スペードのK」だが、このエピソードは一巻以上のページ数を割いており、この作品における屈指の長さなのである……そして主人公が一切出てこない。
内容自体もいまいちという鬼門とも言える出来なのである。

このエピソードに出てくるアグニ、ヘイヤ、ドードーの三人は魅力的なキャラだ。アグニはビーチ編で散々読者に印象付けられているし、他の二人は特別編で数話にわたりフューチャーされているので下手な主要キャラよりも印象に残る。おそらく二人は「スペードのK」戦の為だけに用意されたキャラなのだろう。
だからこそ、ドードーの再登場、アグニとヘイヤの邂逅は心おどった。ああ、この三人でKを倒すのか、とワクワクした。
アグニは見た目は筋骨隆々のいわゆる脳筋キャラのようないでたちなのだが、思慮深く頭も回る友人想いの男だ。
ヘイヤは登場時点ではただの女子高生なのだが大けがと死の瀬戸際で大きく成長し、初登場時点では想像できないくらい逞しくなった女アーチャー(厨二心くすぐる義足と弓のコンボは興奮した)。初登場時の頼りなさも相まって、成長後の彼女はめちゃくちゃカッコいい。
ドードーは主要メンバー中最年少の中学生で普段は冴えないのだがいざという時にはアリスのように頭が回る……というキャラ。

肉体派のアグニとヘイヤ、そこに頭脳のドードーが力を合わせて、最強の戦闘マシーン「スペードのK」を倒すというこれ以上ない熱い展開。
……なのだが、その内容がお粗末であった。
三人の役目としては、アグニが主な戦闘、ドードーはレーダーの看破、ヘイヤがそれの破壊、であろう。
しかしレーダーはすでにアリスによって看破されているので読者としては驚きが無い。だからそれを破壊してもカタルシスが無い。そのうえただのレーダー頼りだったというKのショボさも露呈してしまう。これはいただけない。実はレーダーではなく他の方法で追跡していた、という展開だったらKの凄さや絶望感も際立つので良かったなあと思うが。
途中で三人のほのぼの描写なども混ぜてしまうのでテンポも悪い。戦闘自体も、最終的にはボスの精神が壊れて自滅といった感じで、三人で力を合わせて倒したといったカタルシスが無い。なんとなく勝っちゃった、みたいな展開。
うーん。もっとどうにかならなかったものか。「まじょがり」で大量殺戮をしたアグニはやはりここで死んでおくべきだったと思うし、ドードーやヘイヤの見せ場がもっと欲しかった。

次に、「クラブのK」。
アリスが参加した実質最後のゲームであるにも関わらず、展開の必然性の弱さ、ご都合展開が酷かった。必然性の弱さはこのゲームに限ったことではないが。全体的にこの作品の弱点は「必然性の弱さ」これに尽きる。
簡潔に言えば、敵チームのアホな油断のおかげで勝ってしまっているのだ。今際の国の住人だからジャンキーなのはわかるが後半のボスキャラでこれはキツイ。
仮にも「K」なのだから、もっと勝ちに執着したプレイをしてほしかった。
自陣を守るはずの敵が、主人公側の策という策もない作戦にホイホイ誘い出されてゆくのは噴飯物以外の何物でもない。こういった知能戦で考えも無しに動かれるのは萎える。
最後の逆転方法も、カイジを読んでいた人なら大方予想がついてしまうであろうもの。首輪が多い中、腕輪というところで勘のいい人なら気づくかも。

必然性の弱さはラスボスである「ハートのQ」戦でも目立つ。
もっとも「ハートのQ」「くろっけぇ」はゲームというゲームではなく、主人公の最後の内省イベントでしかないのだが。
主人公が毒入り紅茶を飲んでしまうのがバカすぎる。九割の読者が「おいおい、紅茶飲むなよ」とツッコんだはず。
主人公が紅茶飲まなかったらQはどうしてたんだろう?
てか二人だけじゃなくて全員で来られてたらどうしてたの?
福本漫画や喧嘩商売だと、使われないまでも「その策が失敗した場合の予備の策」がきちんと用意されているので問題ないのだが、どうも策は紅茶しかなさそうだし。
本作のウリであろう「ハート」ジャンルのラストゲーム、ラスボスなのに、「毒盛って幻覚見せて自滅させる」のが策だなんて酷すぎはしないか。

ぶっちゃけ、「すうとり」で作者が力尽きた感がすごい。

「ダイヤのK」も途中までは良かったが、二人になってからは駄目。
オチが早い話「相手の良心に訴えて勝ち」というお粗末展開。
ボスキャラがそれはどうなのよ。
理性では勝とうとしていたけれど実は良心のせいで負けた……とかならわかるが。
そういうキャラクタの魅力依存なオチにするならするで、ボスであるクズリューが冷徹非道だという描写をもっと早い段階でしてほしかった。ビーチから居ることは居たが殆ど描写の無かったぽっと出のキャラが実はいい人でしたとやられても。

言いたいことは他にもあるのだが疲れてきたのでこの辺で終わりにします。
一番良かったのは、女性キャラが美人ぞろいで魅力的なところでしょうか。
露出度の高いキャラが多く、読んでいるとムラムラしてしまい、三巻に一度くらいオナニーしてしまいました。この作者の描く女性は唇が艶めかしくていいんですよねぇ。
文句ばかり書きましたが、面白い漫画です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2017-11-05 22:13:32] [修正:2017-11-05 22:37:17] [このレビューのURL]