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 少女マンガの金字塔たる「ガラスの仮面」には、圧倒的な力があるだろう。
 漫画としての完成度は、各方面で言及されているだろうから、もう少し違った視点でこの作品を紹介してみたい。
 というのもこの作品は「演劇入門」としてかなりの有用性があるからだ。 スタニスラフスキーシステム、あるいはその発展形であるマイケル・チェーホフメソッドの実践的な方法がかなり平易に描かれている。主人公である北島マヤはマイケ・ルチェーホフメソッド的、そのライバルの姫川亜弓はスタニスラフスキーシステム的なアプローチを用いている点にも注目できる。双方のアプローチを比較対象にしながらお互いを検討している点にこの作品の他作品には無い独自性を伺える。故に、ある程度演技の経験のある人にとって、演技へのアプローチを検討する手法として参考に耐えうるものであるし、これから演技の世界に足を踏み入れる人にとっても有用だ。
 また、この作品に表れている劇中劇の演出手法もかなり多岐にわたって紹介されている。新劇からアングラまでの各種様々な方法論が紹介されており、演出の入門にも最適だ。
 さらに、この作品に描かれている各種様々の試みは劇団の組織論さえ説いている。
 この作品はこれから役者、演出家、劇作家となる人や、これから劇団を旗揚げするに当たって重要な点をかなり抑えている。
 ただこの作品の欠点として唯一挙げるなら、やはり演出家以外のスタッフの視点を欠いている事だろう。照明家には照明家なりの、音響家には音響家なりの演劇観というものがあり、それを描くこともまた必要である。何しろ「舞台は石垣」なのだから。
 故にこの欠点を差し引いて9点と評価する。無論今後の展開で、10点になる可能性は十分にある。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-06-21 05:07:25] [修正:2010-06-21 05:07:25]

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