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8.02点(レビュー数:83人)

作者井上雄彦

巻数15巻 (連載中)

連載誌週刊ヤングジャンプ:1999年~ / 集英社

更新時刻 2011-01-18 06:05:07

あらすじ バスケをやめてから何をやっても上手くいかなくなった男、野宮朋美が古ぼけた体育館で車イスの男、戸川清春と出会ったことから物語は始まる。彼らが直面する現実(リアル)とは…?

備考 5年の休載期間を経て連載が再開された。

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この漫画のレビュー

4点 サアベドラさん

 現在の漫画界をひっぱる作家の一人、井上雄彦の青年向けバスケ漫画です。
 本作は非常に現実的で重いテーマを扱っており、得意のキレのあるドラマチックな物語展開でそれを読ませるものになっています。単純に漫画としては読んでいて面白いです。しかし、私にはどうも乗り切れませんでした。どうもテーマとストーリーがちぐはぐになっているな、という印象を受けたからです。

 一般読者にとっては、半身不随も車椅子バスケも暴力沙汰の高校中退も身近な話題ではありません。作中にもあるとおり、普通の人は「新聞の社会欄で目にするような」非日常的な問題です。本作ではそれを読者に突きつけて「これがリアルなんだぞ」と読ませるつくりになっています。普段はあまり知る機会のない、厳しい現実(リアル)の問題にショックを受け、目を向けてほしい、という作者の意図が伺えます。このこと自体には私も非常に共感できますし、実際本作で車椅子バスケというものを初めてまともに知りました。

 が、どうもしっくりこなかったのは物語の展開、すなわちテーマの見せ方です。本作は群像劇という体裁をとっており、3人の主人公が直面する厳しい現実(リアル)が交互に鮮やかに描かれます。で、それを得意のリアリティのある画力で魅せつけ、読者を畳みかけていくという、まるで紙の上で映画をやっているような、スピード感のある手法が本作ではとられています。井上氏はこのようなドラマチックな物語の持っていき方が非常に得意な作家で、それが縦横無尽に発揮されているスラムダンクやバガボンドはそれによって漫画史に名が残るヒット作になっているわけです。おそらく。

 ですが、そのようなドラマチックな展開は実は本作では裏目に出ているのではないかと思います。たしかにエンターテインメントとしては、このような緩急のある物語は読んでいて楽しい。その意味で、本作は非常にウェルメイドな、作りこまれた作品です。でも、現実を抉り出して読者に提示する、ある種のドキュメンタリーであることを目指している(と思われる)本作をこの手法で描くのは、なにか違和感を感じます。
 どんなに半身不随や高校中退という現実的でシリアスなテーマを扱っていても、このような映画のようなごてごてしたシナリオで語られては、結局は「リアルな物語」どまりになってしまっているように見えます。最低でも著者は前述のような啓蒙的意図を持ってこの作品を書いているはずです。ですが、本作はそれよりもまずエンターテインメントの側面に重点を置いた作品に仕上がっています。
 でもそれって、現実社会で本当に半身不随に苦しんでおられる方々に対して、何か失礼な気がしませんか?

 要するに、井上氏はこのような現実的な題材でさえもドラマチックな手法でしか書けないようなのです。そしてドラマチックに提示されたものはすでに「リアル」ではなくなる、というジレンマにも気づいていないのではないか、と思います。意図的にやっているとしたら、もってのほかです。

 よくできた物語としては8点。でも、作者の意図する「リアル」とはちょっと違うんじゃないか、ということで大幅に減点して4点としておきます。

ナイスレビュー: 4

[投稿:2009-05-05 15:22:35] [修正:2009-05-05 15:22:35]

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