あらすじ
ボリス・ヴィアンの小説『うたかたの日々』を原作にした、岡崎京子によるコミック。雑誌「CUTiE」の連載(1994年〜1995年)後に、著者がプロローグ、ラストを描き加え、全体に加筆修正したもの。
「ちょっとした財産もち」のコランと軽やかで美しいクロエ。ふたりは盛大な結婚式を挙げるが、そのすぐ後、クロエは肺に「睡蓮」が巣食うという奇病に侵される。治療費のために破産に追い込まれながら必死に看病するコラン。だが、クロエは日に日に衰弱していく。そして、ある作家の偏執狂的コレクターのシックとその恋人アリーズ、コックのニコラなど、周囲の人々の人生も深刻な様相を呈していく。
原作ともども、この作品の魅力のひとつは、残酷さと無邪気さをあわせもつ幻想的な描写の数々にある。恋するふたりを包む、熱くてシナモンシュガーの味がするバラ色の雲や、土から生えてくるたくさんの銃身、そして、クロエの胸から伸びて咲く睡蓮の花…。原作を知る人にとっては違和感をおぼえる場面もあるかもしれないが、彼女の目をとおして、ていねいに描かれたヴィアンの世界を、特に前半は、ただ楽しみたい。後半に入ると、破滅へ向うコランたちの姿が現実をぎりぎりのところで生きる岡崎作品の登場人物の姿と重なり、物語は一気に走り出す。
凝った装丁も、本書をより魅力的なものにしている
うたかたの日々のレビュー
8点 booさん
岡崎京子が描く少し不思議な世界で繰り広げられるラブストーリー。
このSF的世界観が独特すぎるあまり、最初読んだ時は消化不良感が残りまくりであまり楽しめなかった。ラブストーリーにこんな風変わりな装飾がされているんだから何かしらの寓意があるんだろう、何なんだ?とそっちの方に思考が行ってしまったわけ。
でもそうではなかった。
作者は恐らくただただ美しい物語を書きたかっただけなのだ。
うたかたの日々は2組のカップルの恋の物語だ。
ネタバレは避けるが、ストーリーだけ書き出してもすごく安っぽい話にしかならない。それこそあの「世界の中心で愛を叫ぶ」みたいな。
でもこれは美しくしようという気概が違う。
悲恋とか悲劇っていうのはそれだけでも美しい。でもどうせなら現実世界よりお洒落でファンタジックな街の方が、どうせなら白血病より肺に睡蓮が根付く奇病の方が、どうせならetc…。
この涙ぐましいまでの努力笑。
いや、でも冗談じゃなくてすごいです。普遍的なラブストーリーをこうまで美しく創り直せるのかと。しかも嘘っぽく安っぽくならないように考え抜かれている。
岡崎京子の絵もすばらしい。この作品では原作つきだからか絵のタッチは抑えられ、軽やかで優雅な世界に仕上がっている。一つ一つの絵を見ても普通なのにまとめて見るとこうまで美しいのは何故だろう。
うたかたの日々はポリス・ヴィアンと岡崎京子の美の結晶だ。
酔える人にはたまらない作品だと思うし、珍しく気軽に楽しめる岡崎京子作品でもある。紛れもなくこれも岡崎京子の傑作の一つ。
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[投稿:2011-09-05 00:52:19] [修正:2011-09-06 01:48:15] [このレビューのURL]