「おいきむ」さんのページ

総レビュー数: 4レビュー(全て表示) 最終投稿: 2010年11月07日

7点 GANTZ

現代の日本の16歳の男子高校生が主人公のSFバトルアクション。
一度死んだ人間が強制的にマンションの一室と思しき空間に集められ、謎の黒い球体「GANTZ」を通じて命ぜられるがままに「宇宙人」狩りを行う。
目的も意味も明かされず、主人公たちは標的を殺さなくては生き残ることができない状況に置かれる。

読者は主人公と同じく何も情報を与えられない。あたかもルール不明なビデオゲームの世界に放り出されるような感覚だ。

主人公は生死をかけたゲームを通じて、仲間との出会いと別れを繰り返しつつ、自分と向き合い、人間的に成長してゆく。
恋人はどちらかというと地味な感じの普通の少女で、付き合うことのきっかけも賭けで負けた罰ゲームである。
しかし、彼女はやがて主人公にとってはただ一人の理解者となり、最重要の存在となってゆく。
主人公は恋人に自らの存在意義をかけている。それゆえに恋人の行く末が今後の物語世界の核になっていくだろう。

「GANTZ」世界における「死」は、ビデオゲームと同様に、即物的に淡々と描かれている。
血液や内臓や骨が飛び散る有様をリアリスティック(?)に若干誇張して描いているのは刺激的なアクセントが狙いだろうか。
しかし「死」にリアリティを感じるのは、死にゆく人のそれまで生きてきた人生について多少なりとも認知した上の話なので初対面同士の生き死にについての描写としてはこのようなものかと思う。
またある意味、これがこの作品における唯一のリアリティかとも思う。

個人的にはいくつか謎が残るが、そもそもの設定が設定なのであえて謎のままで許容している。

全編にわたるスリルとスピード感が魅力。いったん読みだすと止まらない。
29巻まとめて借りて一晩で一気読みしてしまった。
最新巻を楽しみにしている。

まだ読んでいない人にも一気読みがおすすめ。寝不足覚悟でぜひ堪能してください。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-12-19 17:54:14] [修正:2010-12-19 17:54:14] [このレビューのURL]

正直、自転車レースの世界にあまり興味がないのでスルーしてしまいそうですが、つい引き込まれてしまいます。何気に熱く面白いマンガです。

普通の銀行員であった主人公が、けして自分から望んだことではなかったはずですが、仕事用の自転車からロードレース用の自転車に乗り換えたばかりに、今や人生まで乗り換えてしまいそうな状況です。

遠ざかる日常世界と呼応するかのように、幼い一人娘との関係にも変化が生じようとしています。

娘の態度の変化に戸惑いつつも迎えた桜島との勝負の最中、体力の限界に近い状況で突如閃く主人公の娘への思いに、思わす心を揺さぶられました。「子供(ふくの)は宝なんかじゃない!(中略)子供(ふくの)は・・・俺の一部だ。」

悩みを抱えつつも、苦しみもがきながら必死に自分と戦っている状況でしか、つかめとれないものが真理なんだな、とあらためて思わされました。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-11-11 01:20:27] [修正:2010-11-11 01:20:27] [このレビューのURL]

8点 PLUTO

かの手塚治虫さんの代表作と言える作品のリメイク版ですが、とても良い作品です。

原作のキャラクターのイメージを壊さないで、より魅力的に表現するという難しいわざに挑戦し、成功されていると思います。

特にアトムやウランがまさしく人間の子供のように描かれている点はとても新鮮で、かつ好感が持てました。浦澤さんの絵は手塚さんの作品との相性がいいのかもしれません。

ストーリーもロボット三原則を前提とする世界観のもと、その前提を揺るがす事件をきっかけにサスペンス的に展開されていて読み応えがあるのですが、個人的には随所にちりばめられたエピソードが好きです。お茶の水博士がアイボ?を徹夜で修理しようとした話やノース2号の話、ゲジヒト夫妻の日本旅行計画など、せつなくて心に残ります。

蛇足ですが、次は浦澤さんによる『アドルフに告ぐ』を見てみたいと思いました。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-09 01:40:17] [修正:2010-11-09 01:40:17] [このレビューのURL]

10点 シグルイ

最終巻を読み終えた。
決戦に導かれる両雄の想いが感慨深い。
第一巻における対決の場面の「行間」を埋め尽くす2人の生きざまと関係人物達の思いが、まざまざと思い起こされる。
すべてのディテールがこの物語に奥行きを与えるとともに、読者の緊張感を高めてゆく。

結末は私個人的には非常に残念であった。
おそらく、これまでに登場人物ひとりひとりの背景を掘り下げて描いてこられた作者もまた、同じ思いであったのではないか、と思わずにいられない。
しかし(私は原作を読んでいないが)、原作者が表現した「封建制度下の武家社会における残酷」とその思想について十分に敬意を払った、これ以外にない素晴らしいラストであった。

それにしても公式の対決の場に水桶を持参するあたり、当時の武士としては当たり前の心構えであったかとは思うが、物語とは言え、好敵手に対する敬意の裏返しともいえる、そうしたリスクに対する意識の高さは、現代の平和ボケした日本人が失ってしまった最たるもののひとつであるように思い知らされた。

作者:山口貴由さんの次回作が、かの名作『覚悟のススメ』の続編とのことだが、大いに期待している。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-11-07 10:22:54] [修正:2010-11-07 10:22:54] [このレビューのURL]