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7.37点(レビュー数:8人)

作者手塚治虫

巻数2巻 (完結)

連載誌ビッグコミック:1972年~ / 小学館

更新時刻 2010-11-10 23:08:24

あらすじ 戦争から復員した天外仁朗はGHQの工作員になっていた。ある時、命令で共産主義者の男の殺人に関与する。その男は、自分の妹の天外志子の恋人であった。

さらに事件関与後、血のついたシャツを仁朗が洗っているとき、知恵おくれの少女お涼と、自分の父親と兄の嫁との間にできた少女の奇子がそれを見てしまう。仁朗はお涼を口封じのため殺し、奇子は一族の体面のために急性肺炎で死亡したとされ、天外家の土蔵の地下室に幽閉されたまま育てられる。

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この漫画のレビュー

8点 朔太さん

[ネタバレあり]

手塚の意欲作。壮大なスケールで圧倒されました。

まずは、時代背景ですが、真に前近代的日本の封建的
家督制度の時代です。
横溝正史も殺人事件の動機、背景を前近代的な日本社会に
求めた小説が多いですが、本当の田舎の悲劇を表現しています。
現代のドラマで本当の田舎の悲劇を描いたものは
皆無ですから、現代人には「まさか?」の世界だと思いますが、
戦前以前の田舎では極めて自然な家制度の産物だったと思われます。
三男のセリフに「家系を調べると、まるで汚物ダメだ。
兄妹、姉弟、夫婦、いとこ、血縁関係が、およそ犬か
猫みたいに混ざり合って、それが子を作りその子同士が
また混ざり合って、小作人や他人の女にまで子を産ませ・・。
その都度金と権力でもみ消してきた。」

そんな陰惨な家の犠牲により、23年間監禁生活を過ごす
奇子ですが、決して主人公ではありません。
戦後の占領下でGHQやCIAの思惑により翻弄される日本人
スパイの次男も田舎で家督を継ぐためには命も差し出す長男も、
倫理を説く三男も家を出て客観的な視線を送る長女も含めて
皆が主人公です。
しかし、全員が善人ではありません。
悪人もいませんが悪魔的悪意を潜在的に持っています。
長女ですら傍観することで罪を犯したことを自覚していません。

彼らが紡ぐ大団円は、ドラマとしては当然の帰結と言えます。
読後感としては、一編の小説かテレビドラマか映画を
見せられたような思いがします。

手塚は一流の脚本家でもあったように思います。
やはり天才です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2020-06-26 07:32:33] [修正:2020-06-26 07:34:09]

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