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6.54点(レビュー数:11人)

作者阿部共実

巻数5巻 (完結)

連載誌週刊少年チャンピオン:2011年~ / 秋田書店

更新時刻 2012-03-08 20:54:03

あらすじ 10代を中心に、人々の上手くいかない日常を描くオムニバス・ショート。“心がざわつく”思春期コミック!!

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この漫画のレビュー

7点 booさん

 人々のうまくいかない日常を描く、といえば確かにそうなのだけれども。そんな言葉に収まらないなかなか強烈な作品だった。今年の新人で今の所一番話題になってるのも分かる気がする。
 説明しにくいのだけれど、藤子先生の短編に近い。笑う一歩手前で背筋がぞっとしちゃうようなブラックコメディ。こんなバランス感覚を備えてる作家は珍しいし、才能がある方なのだろう。

 12Pほどの読みきりを集めた短編集で、それぞれの作品につながりはない。後々再登場することもあるということだけれど、この1巻ではまだそういう話はなかった。
 短いページ数ながら、変人奇人オンパレードのスピーディーで先の読めない展開は読み応えがあって引き込まれる。ここまで予定調和的でない話を描ける漫画家ってなかなかいない。

 話題になる漫画は何かしらの新しさを感じさせる漫画が多い。去年だったらグラゼニやうどんの女がそうだった。そして、この漫画もけっこう新しいんじゃないか?とは思った。ただその新しさを言葉にするのが難しくて。要は何故予定調和的でないのかと感じるのかってことなのだけれど。
 それは多分人情ものに行ってないからだ、て気はしてる。この漫画で描かれるような毒やマイノリティの苦しみっていうのは人情ものと食い合わせがとっても良い。だって傷つかなければ人情は生まれないのだ。多かれ少なかれこの手の漫画にはそういう一面があったし、それをお手本のようにやってのけたのが「大阪ハムレット」だった。でもこの漫画では、毒や苦しみは人のつながりによって救済されない。毒や妄想や苦しみを吐き出し続けて吐き出し続けて吐き出し続ける。そしてこの作者はそれを描くのが上手い。これは新しいな、と思った。

 もう一つおもしろいと感じたのはギャップ。絵柄はとことんコミカルなのに中身はけっこうシリアスで。コメディのように見えて刃がどこかに混じってる。やっぱりこの人のブラックなバランス感覚はおもしろい。
 ここまで書いて、第三話目の親子の話だけはあまりこの短編集にそぐわないな、と思った。何というか、色々と真っ当だよね。まあたまにああいうのもあると、反動でぐっとくる…かもしれない。

 今週刊連載でやっているということなので、ネタ切れにならなかったらいいなと思いつつ。一読してみる価値はあると思う。バキやバチバチやイカ娘の中にこれがあるチャンピオンの懐はなかなかに深いな。あまり刷られてないようなので(どうせ重版されるだろうが)、興味のある方は早めにどうぞ。

追記
2巻を読んで、この人は漫画で「奇妙な味」をやろうとしてるんだなということに思い至った。
破れるか破れないか沸点ぎりぎりのラインをさ迷う日常、異様な物語と奇想、そして不穏な読後感。
シャーリィ・ジャクスンやマシスンの短編集を髣髴とさせる。
阿部共実がすごいのは、絵柄と表現媒体を活かした漫画でしかやれない奇妙な味を実現していることにあると思う。
絵と物語のギャップは先の読めない奇妙な味を引き立てて、居心地の悪さを際立てることになる。

週刊でこのクオリティを維持どころか、上げていってるのは本当にすごい。
奇想好きにはたまらない作品。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2012-03-12 01:47:23] [修正:2012-07-21 01:08:57]

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