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7点(レビュー数:1人)

作者阿部共実

巻数1巻 (完結)

連載誌短編集:2013年~ / 秋田書店

更新時刻 2013-01-01 00:27:28

あらすじ 奇才・阿部共実の原風景を収めた作品集。「空が灰色だから」単行本未収録のオールカラー2話(「灰色」「乙女心」)、web連載作「ドラゴンスワロウ」、デビュー作「破壊症候群」、描き下ろし作「デタジル人間カラメ」、さらに「あつい冬」「大好きが虫はタダシくんの」を収録。

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大好きが虫はタダシくんの 阿部共実作品集のレビュー

点数別:
1件~ 1件を表示/全1 件

7点 鋼鉄くらげさん

「空が灰色だから」の阿部共実先生の短編集。

自分はこれまで、この「阿部共実」という作者の人物像をいま一つ理解できずにいました。しかし、「空が灰色だから」を4巻、この短編集を1巻。計5巻を読んでいって、ようやくその人間性の一端を、朧気ながら理解することができたような気がします。

それを説明するにあたって、こんな例え話を考えてみました。

ある時、地球人と仲良くしたいと思った宇宙人が地球にやってきました。しかしその宇宙人は(あくまで地球人の価値観と照らし合わせた時)奇形もしくは異形と呼ばれるタイプの外見をしており、そのままの姿を地球人に見せたのではとても友好的な態度を取ってもらえないことは明白でした。

そこで、その宇宙人は二種類の着ぐるみを用意しました。一つは日本という国の女子学生と呼ばれる外見をした着ぐるみ。そしてもう一つが透明人間の着ぐるみです。悩んだ末に宇宙人は、(せっかく出て行っても姿を見てもらえないんじゃ仕方が無い)と思い、女子学生の着ぐるみを着て地球人の生活に潜り込みました。

潜入は成功しました。宇宙人は女子学生として他の地球人となんら変わらない日常生活を過ごし、彼女らと一緒にごく普通の学校生活を続けることに成功しました。

しかしやがて問題が発生しました。学校生活を通して仲良くなった一人の少女に、自分の正体を打ち明けたところ少女は大声を上げて、恐怖に慄き、走って逃げて行ってしまいました。宇宙人にとってこれはショックでした。せっかく意を決して自分の正体を打ち明けたのに受け入れてもらえなかった。

そこで今度は、透明人間の着ぐるみを着て地球内部への潜入を試みました。しかし周知の通り、透明人間ではその存在を気付いてもらうことが出来ず、ただ一人でキャッチボールをしているかのように、一方通行のコミュニケーションばかりが続いていきます。どれだけ声を上げても気付かれない。どれだけ手を振っても応えてもらえない。結局、その宇宙人が地球人と仲良くすることは出来ませんでした。

と、やけに長い例え話になってしまいましたが、つまり、「空が灰色だから」に限らずこの作者が抱えている人間性というのは、「異質な自分に対する周囲からの孤独感」です。異質であるがゆえに周囲から孤立し、浮いてしまう。しかし、本来の自分をさらけ出せば更に周囲から引かれ、距離を置かれてしまう。そんな、
ただ留まることしか出来ない、どうしようもない閉塞感が具体的な形となって表れたのがこの短編集であり、「空が灰色だから」という作品なのではないかと、そんなことを考えます。

となると、一般大衆である読者にとって「特異な他者」である作者の人間性を受け入れることができるかどうかが、この作品を評価するポイントとなりますが、少なくとも自分は、この作者の作品に対する方向性に全面的に賛同しています。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-01-12 19:22:48] [修正:2013-01-12 19:52:39] [このレビューのURL]


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