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6.8点(レビュー数:10人)

作者花輪和一

巻数1巻 (完結)

連載誌アックス:1998年~ / 青林工藝社

更新時刻 2009-11-25 06:27:26

あらすじ 銃砲刀剣類等不法所持火薬類取締法違反で執行猶予なく懲役3年の刑を受けた作者の留置場および刑務所体験漫画。

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刑務所の中のレビュー

点数別:
1件~ 5件を表示/全10 件

9点 ほげさん

[ネタバレあり]

刑務所の中における生活を描いた芸術作品。
こう聞くと,あなたは何を思い浮かべるでしょうか?
刑務官による受刑者への暴行,それに対する抗議。
いわば,芸術を通じて刑務所を左翼的に社会化する発想。
あるいは,刑務所の中において通読することが可能な文書類によって得た知識を元にして,文盲の人間が文学作品を昇華していく。
読者にしろ,批評家にしろ,彼をとりまく「読む者」は,一人の受刑者を作家たらしめていく。

しかし,そうした芸術作品は,我々の心に響いてくるかもしれないが,既にありふれてはいないか。
刑務所と芸術。
そうしたインパクトのある対象を芸術家するという発想は,既にありふれてしまっている。
僕なども,リストカットや売春,麻薬,覚せい剤,バイオレンス,殺人などのモチーフがある芸術作品を,衝撃を求めて摂取してきましたが,もう飽きてしまいました。
なんというか,主人公をダークな方向へと引き寄せ,特殊化していくという芸術表現にうんざりとまではいかないまでも,うざったくなっちゃったんですね。
「ナニナニ?そんなに共感してもらいたいのあなたは?」などと悪態めいた戯言をうそぶいてしまいたくなるほど,主人公の特殊化はありふれてきた。
結局,特殊化することが目立ちたがり屋へと転換するように受け手の僕は感じちゃうわけですね。
でもやっぱり対象としてダークなものはみたくなる・・・

そんな矛盾した状態の中で悶々としていた中,ふと手に取った漫画が,この『刑務所の中』なんですよ。
刑務所に受刑者として拘置された漫画家の手になる漫画作品。
一見,上記の例に通じるような気がします。
でも百聞は一見に如かずのことわざ通りなんだけど,刑務官の暴力はでてこないし,そもそも作者の国家への反抗的精神がまるででてこない。
自殺しちゃった小説家・見沢知廉がそうなんだけど,自分で人を殺しておきながら受刑者になってみれば行政がうざいと思う精神がでてくるのが普通でしょう(彼の場合拘置されていたのが12年とわりと長い期間だったからというのもあるし,元々が資本主義的無政府主義者だから)。
行政と個人という対照的関係ではなく,まさに漫画のタイトル通りの刑務所の中における個人の生活というのが,この漫画のスタンス。
朝何食ったとか,刑務所での風呂はこうして入るとか,身辺雑記的な描写が羅列されている。
花輪独特の緻密な描写で刑務所の生活を描いているから,過激なイベントがまるでないにもかかわらず,なんだかすごくドキドキしちゃう漫画なんです。
描き方は極めて静謐で何が起こる訳でもない。
三年間の拘置生活が楽だったはずはないが,のんびりとした,いかにも勤め人にはできない根無し草の芸術家らしい創造へと転化させようとする引力によって漫画が描かれている。
だから,物語も起こらないのだけど興味深く読めるし,こういう表現で刑務所を舞台にした芸術もありだなーと思っちゃう。

この作者・花輪和一という漫画家は,モデルガン集めが高じて,銃刀法違反で逮捕されることになった訳なんですが,基本的に趣味に生きる人なんだなあと感じますね。
僕は趣味より経済ってタイプなんで,とても花輪のようには生きられませんが,カネはなくとも被扶養者はいないし,好きな芸術で食っていけるという人生は,「if」的な世界として憧憬したい部分はありますよね。
もし人生を何回かやれるんなら,花輪的な生き方っていいなーと思っちゃう。
そもそも黒田硫黄とかつげ義春の漫画が好きっていう僕の嗜好自体が,そっちへ憧れだけはあるってことなんですがね。

みなさんも,結構固いお仕事されてたり良い学校通ってたりするんだと思うんです。
でもねー,たまにはコッチ系にこない?って,刑務所というダークなものが手招きしてることをお忘れなく。
こっちもどっぷりつかって,疲れない程度には表現も物語もゆるゆるですから何も心配なしです。
一度刑務所に入ってみるのも悪くねえなあと読後に思わせるほどの,花輪和一の世界を楽しもうとする姿勢を感じられるいい漫画です。

余談ですが,この漫画,無能な映画監督によって映像化されているけれど,漫画の味が全然分かってないので観ないほうがいいです。
この人,最近も高名な娯楽小説を映画化して,個人的には噴飯の作品にしました(こんなのを,日本の映画界も批評家も賞賛しちゃうんだよね)。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2006-10-09 15:44:00] [修正:2006-10-09 15:44:00] [このレビューのURL]

6点 noriさん

作者が自分の監獄生活を漫画にした作品。
刑務所の日常生活がどんなものであるか知っている人はごく少数だろう。
だがそれがどのようなものなのか興味があるという人は大勢いるはずだ。
この漫画はそんな好奇心を満たしてくれる。
軽いノリだからこそリアルさがもろにつたわってくる。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2005-05-05 21:34:34] [修正:2005-05-05 21:34:34] [このレビューのURL]

6点 polojoさん

原作者の体験をもとに描かれた刑務所ライフマンガ

このマンガは2つの大きなハードルがあると思います。
一つは若干おどろおどろしさを含んだ絵。これはそれぞれの好みがあるのでどうしようもないかと思います。
そしてもう一つは刑務所での生活をあまりにも面白可笑しく描いている所です。

「罪をつぐなうための場所なのに、なぜに彼らはこんなにも順風満帆な生活をおくっているのか・・・」と疑問に思ったり、腹を立ててしまう人々は読まない方が良いと思います。

しかし、その2つのハードルをクリアできた人は、とても楽しくこのマンガを読むことができると思います。刑務所という異世界での生活を、ギリギリまでしめっぽさやマイナス的なイメージを排除したこのマンガはエンターテイメント作品として上質のものとなっています。

刑務所のおやつに一喜一憂し、好きな子を語るように大麻について盛り上がる、林間学校や修学旅行にきている少年たちに重なります。

ただストーリーの骨格はかなりでたらめで、一話毎のつながりはあまりなく、最終話も途中で切れているような感じで終わります。

自分とは異世界の日常を楽しむといった点からして、「ゴッドファーザー」を見るときのように楽しめばよいかと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2013-05-12 20:40:56] [修正:2013-05-12 20:40:56] [このレビューのURL]

6点 森エンテスさん

サブカル系漫画家の獄中生活を描いた漫画作品です。

収監される理由も凄いですが、内容も凄いですね。
生の意見を絵柄付で説明されると説得力が違います。

しかし、絵柄が好みでないのと、物語があるわけでないので漫画作品としての楽しみ方はあまりできなかったかなと。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-10-22 20:18:45] [修正:2012-10-22 20:18:45] [このレビューのURL]

6点 gundam22vさん

昔風の絵ですが丁寧かつ出来るだけ軽い感じで刑務所の中
の日常というものを実際
入所した作者が描いており、読んでいて勉強になります
し面白いです。世間から隔離されまくった
謂わば異世界を描くことに終始して、大概この手の作品にある政治色がないのも好感が持てます。

当然ですが無言の圧力的にやはり刑務所の中は
おそろしいという感じも十分描けており、これ読んで
実際入りたいとはとても思えるものでないので、「入りたいな」
的感想を見るとやっぱ首をかしげます。
なんだかんだで囚人もそんなキツくなさそうに見えてみんな出たい
という本音が見え隠れしているのが印象的でした。
全1巻で手に取りやすい本だと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-10-20 02:00:34] [修正:2012-10-20 02:00:34] [このレビューのURL]

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