バットマン:ブラックグローブのレビュー
7点 columbo87さん
グラント・モリソンによるバットマンサーガーエピソード3,中身も3本だてみたいなもんで,1本目の「ブラックグローブ」は久々のサスペンスもの。
孤島に集められたヴィジランティ集団,次々に起こる殺人事件,暇を持てあました大富豪の真意とは?マスクの下に隠された本意とはいかに?そして裏で糸をひく「ブラックグローブ」とはいったい・・・?
目を引くのはアートですなー。コマ割り始めコマそのものまで凝った作りになっていて読んでいて楽しい。水彩や油絵,ペイント画とか,1コマの中でさえ使い分けているのが特徴的。特にバットマンを褪せた色で描くことでその異質さを浮かび上がらせているのはGOOD,他のヴィジランティはどこかしらコミカルな色調で描かれる場合が多かったりして。
アメコミってこういう面白いテクニックを使えるポテンシャルが高いと思うけど,実験漫画みたいなのって意外と少ないよーな気がする(知らないだけだろうが,邦訳じゃあんま見ない)。コマ割りなんて日本の漫画の影響が大きいらしいですよ。WATCHMENの3段×3コマってのも結構なチャレンジだったらしいけど,文化的に絵で魅せるのに長けているんだし,この本みたいな効果も巧いこと使えるようになれば漫画自体も進化していくんじゃないかなとか思う。
普通に絵のクオリティーとしても邦訳じゃかなり高いと思うのでそれ狙いで買ってもいいんじゃないかしら。ストーリーも(モリソンにしちゃ)分かりやすくて読みやすいのでオススメ。常にクールなバットマンはやっぱかっこいいぞ!
この話はキャラクターや設定を50年代のバットマンストーリーから持ってきているんですね,そんで巻末に元ネタエピソードも載せてくれていますが,これが面白い。いろんな土地でバットマンに憧れたタフガイたちが自警活動をしているという話。フランス,ローマ,メキシコ…いろんなコスプレおじさんたちが入り乱れる様は圧巻。中でもインディアン(ネイティブアメリカンに変えなかったのは偉い!)のマン・オブ・バッツ首長はいろんな意味で凄いキャラ。なにせ本名が「グレートイーグル」ですよ。鷲の名を冠しながらコウモリに扮する君に誇りは無いのか!?正体がバレない為の工夫?モロにバレてますよ。
その他にも元ネタになってそうな昔のエピソードが多数収録されてますので,今と違って軽いノリのバットマンも楽しめてお得。
そうそうヒーロークラブと言えばアニメ「バットマン:ブレイブアンドボールド」にもこれが元ネタになってるエピソードがありましたね。それぞれのバットマンに対するジョーカー的キャラが居てカオスで笑える。
後半は舞台をゴッサムに戻して偽バットマンとの対決とブルースの恋がメインになって進行する。バットマン・アンド・サン以来の謎がついに明かされ…そしてバットマンは死を体験する。物語は途切れ途切れに展開され,幻覚なのか,過去の出来事なのか或いは異世界の出来事なのか判然としない。わかるのは決着が近いということだけ。真の敵は一体?ブラックグローブとはなんぞや?そしてブルースとイザベルの恋の行方は?予測がつかない展開に手に汗握る第3弾!必見!!必見!!
見所はなんと言ってもよくわからん場面展開!エッセンスだけよこして「足りない部分は自分で妄想しろ」てな感じの見せ方が最高です!
不可解なシーンはバットマンの幻覚なのだろうか,「ラーズ・アル・グールの復活」で急に出てきたトゥゲル(穴に引き籠もる瞑想法)中に見た夢かなんかなんだろうなーとは思う。同時に登場するバットマイトは現実と虚構の狭間の存在として効果的な登場の仕方だと思う。モリソンのバットマンは何考えてるか分からんから深層心理に触れてくれるのはありがたい。
そしてバットマンの危機を察知して参戦を決めるタリアとダミアン母子!これがカッチョイイ!宿敵が手を貸しに来るみたいな展開は燃えるぜ!
しかし本当どうなるのか全く予測がつかない。謎のワード「ズー・イン・アール」って一体何?ブラックグローブの正体って何?そしてバットマンが想定する最強の敵に対しての作戦とは?気になるけど知りたくない!
R.I.Pが待ち遠しい!
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[投稿:2012-06-03 21:40:03] [修正:2012-06-04 02:36:19] [このレビューのURL]
6点 booさん
グラント・モリソンの月刊バットマン第三弾。今回はヒーロークラブの会合で起こった殺人事件と、バットマン・アンド・サン直接の続編である3人の偽バットマンについての物語が描かれる。そしてどうやら双方の裏にはブラックグローブという悪の秘密結社が関わっているようで…。
まずは前半のヒーロークラブのお話。50年代のバットマンコミックから色々引っ張ってきたものらしく、その元ネタはおまけとして本書の最後に収録されている。こちらは総じてとっつきやすい素直に楽しめる作品。
孤島という隔絶された空間で起きる殺人事件。「そして誰もいなくなった」を筆頭としたミステリーの王道といえるジャンルにモリソンはバットマンとロビン、そしてバットマンにインスパイアされた世界各国のC級ヒーローたちを放り込む。謎解きという面ではありふれてはいるものの、とにかくアイデアがおもしろいのでぐいぐい読まされる。
またアートも非常に良い。安穏としていた時代である50年代のヒーローたちの中に現れる殺伐とした現代のバットマン。その異質・異様な雰囲気が巧みに表現されている。モリソンのテクニカルな演出やコマ割りも多少分かりにくい部分もあったものの上手く機能していた。
そして後半の、前作から続く3人の偽バットマンのお話。モリソンの癖の強さが全面に発揮された趣向。
現実と幻想。生と死。過去と未来。催眠と瞑想。目まぐるしく様々な世界が行き来する。モリソンの真骨頂とも言える魔術的で意味深なライティング。夢幻のようにこれまでの伏線は回収され、さらなる謎が散りばめられていく。ブラックグローブとは何者なのか?
「お前はもうすぐ死ぬ」
バットマンに何が起こるのか? 未来に何が待っているのか? その未来ではダミアンがバットマンになるのだろうか? 万華鏡のように色んな面が移り変わり、世界は混迷を深める。…盛り上げるぜグラント・モリソン!
ただ、やっぱり私はモリソンとはあんまり相性良くないかもなぁ。もう一つぐっと来ない。幻想の描き手としてアラン・ムーアと比べてしまっている部分もあるのかも。
モリソンはムーアと同様魔術師を名乗っているだけあって、ムーアと同じく色んな所から設定やらモチーフを借りてくるのは得意にしている。ただムーアとモリソンの決定的な違いは、ムーアはヒーローやら切り裂きジャックやらクトゥルフやら借りたものを完膚なきまでに自らの世界に沿って作り変え、利用しつくしてしまう所で。あくまで象徴主義的な範囲に留まっているモリソンは独自のサーガを作り出す魔術師という点で、今の所物足りない部分は感じないでもなかったり。
まあでも何だかんだ言って、モリソンのライティングに今ひとつ馴染めないのは浦沢直樹に原因がある気がしないでもない。だってさ、ここ最近ずっと浦沢直樹の作品では、壮大かつ意味深に黒幕を引っ張って引っ張って結末に進むにつれてあれ?…みたいなのが繰り返されてきたわけじゃないですか。
そういう意味で、浦沢作品と共通点のあるモリソンのライティングには事前に免疫みたいなのが反応しちゃってんじゃないかなと。R.I.P.には、そんな浦沢作品の負の遺産をぶち壊してくれる第一部のエンディングを期待してます。しかしまだまだ引っ張られるんじゃないかという予感。
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[投稿:2012-05-16 23:41:13] [修正:2012-05-17 11:00:53] [このレビューのURL]