ホーム > 不明 > 短編集 > サタニック・スイート

4点(レビュー数:1人)

作者ヤマシタトモコ

巻数1巻 (完結)

連載誌短編集:2012年~ / 講談社

更新時刻 2012-06-15 00:40:56

あらすじ ヤマシタトモコの多彩な世界を味わえる傑作短編集! 2004~2005年に描かれた初期未発表作品3作を含む、計6作品を収録。魔法少女の奮闘日記あり、男子高校生の友情ものあり、少女と塾講師の純情過激なラブストーリーあり。どこにも描かれたことのないヤマシタワールドが広がる、ファン必携の短編集!

備考 短編集のため連載開始年には発行年を記入。

シェア
Check

サタニック・スイートのレビュー

点数別:
1件~ 1件を表示/全1 件

4点 booさん

 ヤマシタトモコの6つの短編が収録されている作品集。最初の方の比較的初期のものから今年発表されたばかりのものまで色々なので、一冊の短編集としての味わいはさまざま。

 最初の4つは比較的初期の投稿作ということなのだけれども。これらと後の2つを見比べると、ヤマシタトモコは明らかに「ドントクライ、ガール」以降あたりから変わったなぁと思う。男も女も一歩踏み間違えばギャグになっちゃいそうな、変な色香がまだまだ感じられない。
 線は硬くても、決して下手というわけじゃあない。むしろ現在のヤマシタトモコよりもコマ割りも多くて丁寧に描いているし、しっかり描き込んでもいるんだけどねぇ。やっぱりヤマシタトモコのおもしろさはそういう部分じゃないんだなぁ、と痛切に感じた。

 というわけで、初期の4つは今ひとつ。ヤマシタ作品王道のおじと姪っ子シチュエーション、少しファンタジックな魔法少女、人情幽霊ものと、様々な話が見られるという点では見所はあるのだけれども。どれも投稿作ということもあってか、肩に力が入りすぎなのかもしれない。話も絵もごちゃごちゃで、物語にもう一つ乗り切れなかった。

 やはり比較的最近の2つがおもしろい。

 「ビューティフルムービー」は映画館に勤める女性が主人公。“映画のように美しいその一瞬で、すべてが終わってほしかった”と映画と引き比べては現実に疲れている女性の物語だ。現実には映画みたいに起承転結があって、美しいラストで終わりはしない。ずっと同じことの繰り返しかもしれないし、何か素晴らしいことがあっても次の日には色あせているかもしれないわけで。この短編においても女性に何か変化が訪れるわけじゃあない。別れた彼氏とは元に戻らないし、新しい恋をすることだってない。
 決して明るい物語ではないのだけれど、まあ現実においてもそんなもんだよなぁ。ヤマシタトモコの描く倦怠と退廃はそれだけで色気があるし、そんなモノクロな現実に訪れる一瞬の色彩は驚くほどに鮮烈だった。私達と同じ現実に生きているからこそ主人公に共感してしまうし、その一瞬のために生きていける気がする。

 「MUD」はこれぞヤマシタトモコな傑作。主人公は予備校に通う女子高生。退屈な日常を生きている彼女はある日予備校の教師が落とした携帯を見つけると、その画面には明け透けなSM願望のつぶやかれたツイッターの画面が写っていた…。
 このような退屈な日常があるきっかけで輝きだすというよくあるストーリーなのだけれども、そのきっかけとその日常の輝き方というのが尋常じゃなくエグい。アナルプラグとか緊縛とかそんなんばっか。そして行き詰った二人の関係がどうなるのかとやきもきしていたら…何とも見事に放り投げてくれるなぁ笑。最後にこんなに切れ味鋭いジャーマンスープレックスをかけれる漫画家はまじでヤマシタトモコくらいだと思う。こんなの笑うしかない。

 これが一番最初のヤマシタトモコというのはおすすめしにくいけれども、他の作品を気に入った方なら最後の二つのために読む価値はあると思う。やっぱり最近のヤマシタトモコはノリに乗ってる。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-06-15 00:41:17] [修正:2012-06-15 00:42:51] [このレビューのURL]


サタニック・スイートと同じ作者の漫画

ヤマシタトモコの情報をもっと見る

同年代の漫画

短編集の情報をもっと見る