「右から左へ。」さんのページ

[ネタバレあり]


基本的には、オタク文化を消費する人々の日常をコミカルに描いた青春群像漫画である。また、登場人物に一般人的な視点を持った人物がいるので、オタクでない人にも楽しめるように配慮されている。むしろ、一般人にこそ楽しんでほしい。

この漫画を読んで思ったことは、オタクといっても普通に青春に恋い焦がれ、また仲間と一緒に何かに熱中したがっているということ。

しかし、何より感じたことは、彼らに対する羨望だった。私自身、大学で生活を送っている身であるわけだが、彼らの一見淡々とした日常生活でありながら、密度の濃い人間関係を読んで、正直今の自分の現状が虚しくなった。淡々としつつ、何かをやるときはみんなでブータレながらも、一生懸命やる。どこか懐かしい自分の高校時代のノリ。うらやましい。大学という人間関係が希薄となりがちな領域で、うまくやっている人間は少数派だろう。彼らはそのマイノリティーに属しているのだ。

もちろん、この漫画にオタクな人々のすべてが描かれているわけではないだろうが、エッセンスは詰まっているであろう。上記のオタクの姿勢には、オタクは特別じゃない、他の人たちが野球やサッカーなどに打ち込む対象が、たまたまオタク文化だっただけなのだ、という事実が描かれている。そこには、オタク自身の自慰的な欲望に終始する、いわゆるオタク漫画にはない魅力がある。その点こそが、一般人が楽しめるエンターテイメント性をこの漫画が備えている理由であろう。

後半になるにつれて、ドラマチック性は薄れていくが、哀愁漂う大学生活をリアルに描けていて、とてもよかった。斑目は最後まで報われないキャラだったが、彼がいたおかげでどれだけ私の心が救われたことか。

私の中ではむしろ、後半にいくにつれてこの漫画がよくなっていった。初期メンバーの卒業によって、様変わりするげんしけんの内実。移ろいゆく季節とともに、哀愁が感じられた。その点が、読後に何ともいえぬ哀しさが感じられた理由だと思う。会員同士の恋愛模様も含めて、しめくくりがうまかった。

1巻から9巻まで一気に読むと、いっそういい漫画だと実感できた。私の中では、物事の考え方が変わったりするほどの力をもった作品。オタクの認識だけではなく、自身の今後の大学生活をどうするのかということも考えさせられた。何度も読み返そうと思ったし、大学生にはうってつけの漫画。9点。

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[投稿:2008-10-10 22:25:44] [修正:2008-10-10 22:25:44]