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総レビュー数: 52レビュー(全て表示) 最終投稿: 2008年10月09日

9点 リアル


この作品は深いのだろうか、浅いのだろうか。

評価は分かれると思う。
リアル、という題名どおり、身体障害者の現実が、作者である井上雄彦の好きなバスケットボールというスポーツをモチーフとして切り取られた作品。

障害者。

普段、同情や憐みといった感情で済まされることの多い、微妙なテーマである。しかし、作者の独自の切り口で障害者の現実が浮き彫りにされる。そこには、同情といった感情は存在せず、ただ現実問題として障害者が存在しているという「現実」だけがあり、兎角すると陥りがちな自己肯定といった感情もない。

暗くなりすぎないように適度にギャグが挟み込まれてはいるが、作品全体には暗い雰囲気が漂う。野宮の存在が救いか。

私がこの作品を読んで感じたことは、彼らの現実を作者から提示された読者が、自分自身に問いかけることを求められているのではないかということ。あなたはどう生きていますか、と。

もちろん、スポーツ漫画として楽しむこともできるように配慮はされている。だが、話の中心は、障害者スポーツをモチーフとした障害者の人間描写である。上記のような問題を感じるかどうかは感性の問題であると思うが(決して悪意はない)、少なくとも私は深いと感じた。エンターテイメントとして楽しめる漫画であると同時に、考えさせられる漫画。色々な評価があると思うが、障害者に対する認識を再考させられた点で、物事の考え方が変わったりするほどの力をもった作品、9点とした。

(追記:2008/11/05)

最新刊まで読了。やっぱりいいなぁ、この漫画。

この漫画の登場人物は、みんな徐々にだが「リアル=現実」と向き合い、その出来る範囲でのベストをつくそうと努力している。それに引き替え自分は・・・と考えつつ、読んでしまうのである。

かといって、作者の井上雄彦は決して説教目的でこの漫画を描いているのではないはずだ。「今の若者は頑張らないのに、この登場人物は・・・」とかそういうメッセージ性はないと思う。とにかく、この登場人物たちはみんな強いんだ。強い。そのことが見ていてしんどくなるときもあるけど、自分もがんばろうって思える。素直に感化されすぎかもしれないけど、それでいいのでは。

障害者や野宮の頑張りっていうのは、自分のできる範囲で頑張れよっていう一種の励まし。みなさんは、どのようにこの漫画を読むのだろうか。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2008-10-13 22:51:36] [修正:2008-11-05 20:55:50] [このレビューのURL]


漫画、というより公安9課という組織を通した物語の中で、科学的、社会的に物事の考察をする読み物。

個人的に攻殻機動隊の世界観が大好きであるため、アニメ版の作品(SAC、2nd GiG、SSS、劇場版Ghost in the shell、劇場版イノセンス)は全話すべて視聴している。その背景があればこそ、100%この世界に浸れたわけである。

つまり、一般の方、とりわけ今まで攻殻機動隊に親しむことがなかった方には、この世界観を理解するのに、やや思考力と読解力が求められるということを示唆している。難解なセリフ、世界観、倫理的な問題を孕む事項についての哲学的な認識。それらの事項への積極的なアプローチ、つまり読者の主体性なくしては、この漫画を漫然と読み進めることはつらいと考えられる。それでも、アニメ版と比較すると外部記憶装置に頼る台詞がかなり少なく、読みやすい印象は受けた。また、少佐のキャラがアニメよりも、砕けた感じになっていて親しみが持てた。その分示唆に富む知的な発言が少ないという欠点もあるが。

だが、1991年初版のこの漫画が、17年後の今現在でも十分に通用しうる問題を提起していること。また、その世界観に向かっていくかのように、現実世界の方が進歩し続けていること。その2点だけでも、既存のSF漫画には到達し得なかった奥深さがある。さらに、深い社会考察、科学的なアプローチ。これらが複合的に作用して独特であり、かつどこか現実的な攻殻機動隊の世界観を構築しているのである。

この作品を楽しむために。

士郎正宗が1巻で述べているように、この漫画は解説文を読む回と作品を読む回に分けて読んでほしい。また、他のレビュアーの述べるように、一回で全てを理解しようとして読むのではなく、数回に分けて理解しながら読むのが賢明かと思われる。さらに、機会があれば、アニメ版も視聴してほしい。より深い考察ができるだろう。

総じて見れば、エンターテイメント性を備え、かつ深い考察をすることができているこの作品。良作であることは間違いない。だが、万人受けは決してしないと思う。現代、そして未来の社会が抱えるであろう諸問題への考察をしたい方、サイボーグ技術に関心のある方にはぜひ一読を勧めたい。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2008-10-27 19:51:26] [修正:2008-10-27 19:51:26] [このレビューのURL]


ソクラテスの話がいいという評判が気になったので読んでみた。

なるほど、興味深い。

人間の嫌な部分といい部分、人間の複雑な性質が、色々な話の中に織り込まれるようにして描かれている。オペラを観た後のような感じ。オペラ同様、少し演出が大袈裟であるため、不自然に感じる人もいるとは思うが、壮大なテーマをこれだけ正面から描く漫画、そして話にうまくオチをつけることができている漫画はそうそうない。

一種の哲学書となりうる。人間の本質とは何かが描かれているのは前述のとおりであり、また日常生活を送ってふと疑問を感じたときに読み返して、「あぁ、そうだなぁ。」と感じることができるからだ。読後に思索にふけることができるほど、話が深いのである。一話完結でありながら、深い人間描写。作者の技量が試されたソクラテスの話に限らず、全体としてそのような雰囲気が流れている。しかも、説教臭さが出ないような配慮が感じられた。

絵はやや少女漫画のようであり、好き嫌いが分かれると思うが、是非読んでもらいたい作品。特に、思春期をすぎて青年となる人や、大人の人は楽しめると思う。適度なエンターテイメント性を備えた、考えさせられる漫画。ふーん、で流さずに、自分の身に当てはめて味わってほしい。何回も読むことができることに加えて、人によっては物事の考え方が変わったりするほどの力をもった作品。9点。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2008-10-16 06:50:18] [修正:2008-10-24 15:21:50] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]


基本的には、オタク文化を消費する人々の日常をコミカルに描いた青春群像漫画である。また、登場人物に一般人的な視点を持った人物がいるので、オタクでない人にも楽しめるように配慮されている。むしろ、一般人にこそ楽しんでほしい。

この漫画を読んで思ったことは、オタクといっても普通に青春に恋い焦がれ、また仲間と一緒に何かに熱中したがっているということ。

しかし、何より感じたことは、彼らに対する羨望だった。私自身、大学で生活を送っている身であるわけだが、彼らの一見淡々とした日常生活でありながら、密度の濃い人間関係を読んで、正直今の自分の現状が虚しくなった。淡々としつつ、何かをやるときはみんなでブータレながらも、一生懸命やる。どこか懐かしい自分の高校時代のノリ。うらやましい。大学という人間関係が希薄となりがちな領域で、うまくやっている人間は少数派だろう。彼らはそのマイノリティーに属しているのだ。

もちろん、この漫画にオタクな人々のすべてが描かれているわけではないだろうが、エッセンスは詰まっているであろう。上記のオタクの姿勢には、オタクは特別じゃない、他の人たちが野球やサッカーなどに打ち込む対象が、たまたまオタク文化だっただけなのだ、という事実が描かれている。そこには、オタク自身の自慰的な欲望に終始する、いわゆるオタク漫画にはない魅力がある。その点こそが、一般人が楽しめるエンターテイメント性をこの漫画が備えている理由であろう。

後半になるにつれて、ドラマチック性は薄れていくが、哀愁漂う大学生活をリアルに描けていて、とてもよかった。斑目は最後まで報われないキャラだったが、彼がいたおかげでどれだけ私の心が救われたことか。

私の中ではむしろ、後半にいくにつれてこの漫画がよくなっていった。初期メンバーの卒業によって、様変わりするげんしけんの内実。移ろいゆく季節とともに、哀愁が感じられた。その点が、読後に何ともいえぬ哀しさが感じられた理由だと思う。会員同士の恋愛模様も含めて、しめくくりがうまかった。

1巻から9巻まで一気に読むと、いっそういい漫画だと実感できた。私の中では、物事の考え方が変わったりするほどの力をもった作品。オタクの認識だけではなく、自身の今後の大学生活をどうするのかということも考えさせられた。何度も読み返そうと思ったし、大学生にはうってつけの漫画。9点。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2008-10-10 22:25:44] [修正:2008-10-10 22:25:44] [このレビューのURL]