ウツボラのレビュー
8点 booさん
ようやくの完結! 後はこの調子で呼出し一の続きもぜひ!
ビルから飛び降りた謎の女「朱」。彼女とつながりのあった作家・溝呂木は事情聴取のため警察に呼び出される。そんな彼の前に現れたのは朱の双子を名乗る、彼女に瓜二つの女「三木桜」だった…。
中村明日美子が描くサイコ・サスペンス。とは言っても1巻時点ではあんまりサスペンスやミステリー的な魅力は感じられなくて…。何といっても作品を彩る要素が派手すぎた。
瓜二つの美少女を巡る謎。初老の渋い作家。罪の匂い。退廃的な愛。中村明日美子は痴人の愛のナオミのような魔性の女、ファムファタールを具現化しようとしているのだと思った。自分のものにするためならどこまで堕ちてしまっても構わないといったような女を。彼女の描く圧倒的な白と黒の魅力にはそれを可能にする力があったわけで、サスペンスなど脇になってしまうくらいウツボラの美少女たちは耽美だった。精神の不均衡を伺わせるような病的な瞳には気付けば吸い込まれてしまっていた。
しかし完結巻である2巻では一転して、サスペンス性が強くなる。一読では頭の中がこんがらがってしまう複雑なプロット。説明は最低限なので自分で考えていく謎解きの楽しさはもちろん、謎を解いていくことが謎の女や溝呂木たちの素顔を明らかにしていく仕組みなのがおもしろい。
しかしここで気付いたのは、ファムファタールを描くこととサスペンスとしての物語のおもしろさは決して両立しないということで。魔性の女とは心の内が読めないからこそ魔性なのだ。複雑な謎がどんどん解かれていく内に彼女達は底を見せ始める。耽美は少しずつ薄れていき、魔性の女はただの女に近づいていく。
そして虚飾が剥かれて剥かれて剥かれた後に残ったもの。それはむき出しの作家の業の深さであり、女の業の深さだった。
何よりも才能を欲しながらも才能の枯渇に脅えるもの。どんなことをしてでも愛を求めるもの。その二つの業がせめぎあう様にはもう圧倒されるしかなかった。そして遺された二つのものには心を抉られるしかなかった。
これは作家でありなおかつ女であるからこそ描けたのだろう。しかも一時期にしろ筆を折っていた中村明日美子の影を裏にひしひしと感じないわけにはいかなくて。作るものの落ち込む深淵の深さを一端にでも覗いたように思えて鳥肌がたった。
復帰後に初めて読んだのがウツボラの2巻なのだけれども、やっぱり中村明日美子はすごい! 文句なしの傑作。もちろんおすすめ。
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[投稿:2012-05-25 23:18:49] [修正:2012-05-26 16:32:55] [このレビューのURL]
8点 s-fateさん
この後に大きなどんでん返しが無い限り、いくつか考えられるパターンに収まりそうな内容ですが、良い意味でちょっと古いタイプの耽美な感じがいいですね。また、ヒロイン?の集中線みたいな目玉の描き方がすごい印象的です。作品を包む雰囲気がいい。携帯さえ出てこなければ、昭和設定でも違和感が無く、懐かしい感じもします。
7点ぐらいはあげたいところですが、作者が体調不良でいつ再開するか不明ですので、とりあえず4点ぐらいにしておきます。回復したらで結構ですので続きが是非読みたいです。
追記 2巻まで読んで大きなどんでん返しがありました。一読では理解できず、元に戻って「ここでこうなって確かここでこんな話があって・・・あー!そういうことか!」というところが何カ所かあり、たった2巻で詰め込んだ感も無くここまで出来るすごい構成力に圧倒されるばかりです。種明かしの理解のため以外でも繰り返し読んでしまったことと無事復活完結したので8点。
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[投稿:2010-10-09 02:47:02] [修正:2012-05-27 01:46:23] [このレビューのURL]
8点 xenosさん
本作は中村明日美子の真骨頂的作品であろう。
とにかく、単行本の装丁に惹かれた人は購入してみるべきだろう。装丁からはみ出してくる世界が読めば濃密に読者の精神を覆い尽くす。
サイコ・サスペンスというジャンルだが、まだ一巻しか刊行されていない段階では、この観点からの評価は難しい。
だが、この作品に漂う耽美的世界観はまったく見事である。これは文章で説明するのは難しいのだが、作中の世界観を見事に掌握しきる、中村明日美子の画風には脱帽を禁じえない。
とにかく、要チェックである。
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[投稿:2010-06-21 20:24:11] [修正:2010-06-21 20:25:20] [このレビューのURL]