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6.7点(レビュー数:10人)

作者相原コージ

巻数9巻 (完結)

連載誌週刊ヤングサンデー:1992年~ / 小学館

更新時刻 2009-11-25 06:31:41

あらすじ 群雄割拠する戦国の世 その陰には 暗中飛躍する忍者の姿があった 人知れず死を賭して 闇から歴史を動かした陰の男達 そんな秋霜烈日な宿命を生きる彼らの中に 独り異端の忍者があった 彼の目的は只ひとつ −生きぬくこと−(本文より)

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この漫画のレビュー

5点 何某何さん

[ネタバレあり]

厳しい掟が支配する忍者の里で、落ちこぼれの見習い忍者ムジナは、父、ゴキブリから教わった秘術を駆使し、欲望渦巻く裏社会での闘争に身を投じていく。
「何があっても生き抜け」という父の遺言を守り、ムジナはひたすら自分自身がただ生き残る為だけに、任務に臨み敵と戦い、時には逃げ、そして時には卑屈になりながら、忍者としての腕を上げ人間としても精神的に成長してゆく。
いろいろなものを失い、傷つき、惨めで過酷な日々を送る中、ムジナの前に美しい少女、スズメが現れる。
恋愛感情が芽生えるムジナだが、それは「愛するものを作るな」とも遺した父の教えに背くものであり、その狭間で揺れ動くことになる……。

リアリティ重視の徹底して苛烈で情け容赦の無いストーリーは、世間一般のいわゆる「カッコいい」忍者のイメージ像が排されているのも相まって、鮮烈な印象を放ち、読者をグイグイと引きつけていく。
加えて、「お約束」を踏まえながらもアレンジが効いて魅力を持った登場人物たちによる、戦闘力殺傷力確実性効果重視で全然格好良くない忍術の応酬は、王道でありながらも実に異彩でどこかユーモラスでとても面白い。
だが、この作品を最も際立たせている、一番にして最高のツボは、何と言っても根底に流れるその「熱さ」だろう。
主人公ムジナは生き抜くためにどんなに醜態を晒してもそれでも前を向き続け、スズメも心が折れそうになりながらも、無力な体で果敢に敵に抗い、里を、ムジナを、己が身を、必死で守ろうとし、そして、ムジナの友人で、自己中心的な卑劣漢だったサジでさえも、クライマックスでは最高の友情と優しさを見せるのだ。
とにかくこのマンガはその多彩な登場人物達の見せる多種多様な「生き様」「死に様」が、本当に光っている。
なにしろ、犬死でさえも格好良くなってしまうのだから。こんな表現は並の漫画家では絶対にできない。
このまま本当の忍者のように闇に埋もれさせておくには惜しい、相原コージ、入魂の隠れた逸品だ。


…………と、ここまで書くと、この作品がさぞかし素晴らしい、万人にオススメの傑作忍者漫画のような印象を持つかも知れないが、ところがどっこい、あまりにも致命的極まりない失敗欠点が、この漫画内では散見し過ぎていて、作品の評価を決定的なほど大幅に落としてしまっているのだ。
まず、相原コージお得意のギャグが悲しくなるほど滑ってしまっている。
ハードな物語を挟むようにして矢継ぎ早に入れられるそのギャグが、笑えるようなシーンは一切無い。
なぜか、それは空気をまったく読まずに入れているからだ。
通常、シリアスなところに挟むギャグと言うのは、重苦しい雰囲気を緩和させる、アクション漫画にはなくてならない重要なもので、適度な量を絶妙のタイミングで入れることによって、軽快なテンポの良さを展開の中に生み出し、実にいい味となって物語内に生きるようになるのだが、この「ムジナ」では、それがほとんど当てはまっていない。
ただ思いついたものを思いついた其の時に、何の配慮もせず不適切で量も無駄にひたすら垂れ流しているだけで、漫画内のテンポを思いっきり殺してしまっている。
さらに、実験と銘売って、突飛で様々な表現技法に突如チャレンジしたりしているが、これがまったく読者の気を引くものになっておらず、面食らって当惑して困惑してしまうだけだ。
相原コージ特有の露悪趣味もストーリーのムードをぶち壊しにするだけで、とにかく見苦しくて見づらいとしか言いようが無い。
作者がウケ狙いでやろうとしていたことの全てが、見事にハズれていて、物語の興を完全に削いでしまっている。
ただ、この頃の相原コージは漫画家としての破綻が始まっていた時期だったらしく、そんな背景を考えると、作品が粗雑で粗悪になってしまったのも、やむなしだったのかなあと思わずにはいられない。
その辺はしっかりと汲んでやるべきだろう。


だが、そんな多量で多大な欠点を差し引いても、
クライマックスの壮絶さは圧巻だし、
ラストシーンはあまりにも、美しい。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-11-16 00:15:52] [修正:2009-11-16 22:39:59]

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