火の鳥のレビュー
9点 ジブリ好き!さん
壮大なる、「命」をめぐる物語!
古今東西、権力者から動物まで、あらゆるシチュエーションで紡がれる不老不死を巡る物語です。
不老不死の血をもつ火の鳥が全ての物語を通したキーであり、本当に多様な物語が描かれています。今も昔もそして未来も、人が求めるのはやっぱり「不老不死」だからこそ、全く状況は違うのに求めるものが同じという物語がいくつも生まれたのでしょう。
命をめぐる問答が恐ろしく深く、また説得力を帯びてます。それは、手塚先生が戦争を生き延びた数少ない漫画家の代表者だからでしょう。最近の漫画でも、戦いにおける生や死を描くものは多いですが、しょせんそれを描いてる漫画家は戦争を間接的にしか知り得ません。嘘っぱちとまでは言いませんが、その描写のリアリティや説得力において、手塚先生は一線を越えていると思います。そういう意味で、手塚先生は今の漫画家にとって、越えられない壁をもっているのだと思います。
漫画としての面白さも一級品です。
展開や見せ方が半端じゃなく多様で飽きません。
子供の頃から家に初版で大判の単行本があったので、読み耽っていた思い出作品でもあるのですが、ロビタやナメクジ帝国の話や、宇宙船で彷徨う話はものすごく怖かったです。
昔の漫画には説教くさいものが多いのですが、この漫画はそんなことはないと思います。てゆうか、これはもう説教とかいうレベルじゃないです。
説教臭さは、作者の意見の代弁者として、キャラが自分の意見を頑なに貫いたりアピールすることで、読者が押し付けられた感じになって生まれるものですが、この作品では命についてあらゆる考えをもったキャラが登場しながらも、そのほぼ全てのキャラの考えが火の鳥に一蹴されてしまうのです。
また、火の鳥自身は考えを一蹴しながらも、自分の意見を押し付けません。明確な答えを提示しない場合も多いです。
つまり、読者は物語を読みながらどの考えに共感できるかを探し求めればいいのです。物語として、各話とも火の鳥以外の主要キャラの死までが描かれていますが、きれいな死に方も志半ばな死に方も様々です。男も女も子供も老人もロボットも動物も、十人十色の生き様・死に様が魅力的で感動的なんです。
不老不死が正しいか否かということ以上に、生とはなにか?死とはなにか?を問われます。
「死」というものに恐怖を感じている方は必見!
僕も「死ぬのが怖い」とか「不老不死が欲しい!」なんて思ったりしますが、この話を読む度、大切なのは「生きる喜びを感じること」や「生き様」なんだなぁと思います。
ナメクジ帝国の話で、不老不死になった主人公が何千年と孤独に彷徨う姿を見てしまった時、「死ぬことには生きることと同様の喜びがあるのかもしれない」、なんて思ってみたり…
未完だけど、それぞれの話は基本独立なので、読む分には問題ありません。なにより、火の鳥の物語は、僕らがそこから何かを感じ取ることで完結するのだと思います。
ナイスレビュー: 4 票
[投稿:2010-04-05 15:15:58] [修正:2010-04-11 19:39:04] [このレビューのURL]
10点 あんりさん
他のレビュワーさん方が巧く語っているので
特に語ることもないかなと 得点のみにしていましたが
何か書かないと得点が反映されなくなりましたので何か書きます。
何か感想を述べようとすると 私の脳ではオーバーロードを起こしてしまいます、そんな作品です
何か無理やり言おうとしても 批判も賛美もゴチャ交ぜで出てきてしまいそうで
むしろ何も言わないほうが 伝わるかなと思ってしまった、そんな作品です。
ナイスレビュー: 2 票
[投稿:2007-07-01 17:32:30] [修正:2010-05-25 14:18:23] [このレビューのURL]
10点 真樹さん
宇宙という器、地球という器、その中での人間・生物達のドラマ。
とにかく壮大過ぎる世界観ながら、混乱も退屈もさせずに
読み込ませてしまう辺りが、超名作と呼ばれる所以でしょう。
漫画としての面白さも持ちつつ、下手な自然思想書以上に考えさせられる深さを持っている。
人が誰しも一度は抱く根源的・哲学的懐疑に自らの思考力で向き合える、
それ位の精神成熟度に達して初めて、この作品の本質が理解出来るのではと思いました。
そういった意味、若年期と大人になった時とで、読後の印象がだいぶ変わると思う。
私は既にイイ大人になったつい最近読み返してみて、色々心にクるモノを感じました。
死生観、自然観が異なる人には合わないかもしれませんが、考えるキッカケにはなると思います。
ナイスレビュー: 2 票
[投稿:2005-08-14 04:42:36] [修正:2005-08-14 04:42:36] [このレビューのURL]
10点 団背広さん
この作品にはロマンとスペクタクルと哲学が溢れんばかりに盛り込まれている。読んでいると心臓に腕を突っ込まれるような感じすらする、それくらいに凄まじく恐ろしい漫画だ。
毒と愛とがぐちゃぐちゃに入り混じったこの世界こそが、本当の人間の世界。それは救いようがなく、だからこそ美しい。
この漫画が描かれたときこそ、まさしく手塚治虫の手に神が宿った瞬間だろう。すべてが圧倒的すぎる。
なんか読んでて土下座したくなった漫画。
ナイスレビュー: 2 票
[投稿:2005-05-11 22:58:56] [修正:2005-05-11 22:58:56] [このレビューのURL]
10点 nur_wer_die_sehnsuchtさん
「宇宙」というものだよな。
突っ込んで言えば、『火の鳥』に通底しているのは日本古来の「無常観」というものだよ。
全てのものは必ず滅びるわけ。それがこの宇宙に存在するものの宿命なんだよ。
だから、なんだよな。滅びない「火の鳥」というものを創造し、これと関わることで無常というものを明らめているわけ。
古代日本で宝飾職人であった男が自分の欲望の末に両腕を斬り落とされる。もう職人としては終わるわけだ。しかし彼はサルタヒコとなり、新たな生を受けるよな。
無常というものに対して、人間がどう受け入れるべきなのかということがここにあるわけだよ。
この世の栄華、欲望ではないものが、無常を受け入れることで拓いて行くわけよ。
永遠の命を求める者は、全て滅びるじゃない。だからそうではないのだ、ということだよな。
もう一つの代表作である『ブラックジャック』は、一方の西洋思想というものを表現しているんだよ。人間の力で何でもしていこう、というな。しかしそこにも無常観が見え隠れしていることがわかるの。
何でも出来る天才外科医ブラックジャックが及ばないものがあるわけだよ。
『火の鳥』の場合は、未来にまで話が及ぶじゃない。でもそこでも同じことを繰り返すよな。だから人間存在の基底にあるものを描いた、ということなんだよ。
人間の進歩やなんかはどうでもいいんだ。人間存在には普遍的な重要なものがあるの。
それが無常観を受け入れることなんだよ。死すべきモータルな存在であるからこそ、人間なんだよな。
だからあの作品では、火の鳥を捕獲することに失敗した者達のその後の運命にこそ、その答えが表されている、ということだ。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2018-08-10 10:47:40] [修正:2018-08-10 10:47:40] [このレビューのURL]
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