「Mikky-D」さんのページ

総レビュー数: 74レビュー(全て表示) 最終投稿: 2008年10月02日

 リアリティなど皆無に近く、陳腐なストーリー展開。画も見にくく苦手です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2008-10-25 18:54:31] [修正:2008-10-25 18:54:31] [このレビューのURL]

 ストーリー云々の前に、作者の、パンク・ロック・ムーブメントを含むポピュラー音楽史(あるいはその文化)に関する無知に辟易する。明らかにシド・ビシャスをモチーフとしたキャラに代表されるそのイメージはあまりに貧しく幼稚で、見ていて辛い。

 おそらく、これらの原因として、シド・ビシャスのパンク・アイコンとしての神格化と、彼とナンシー・スパンゲンについてのエピソードの徹底的な美化が作者の根底にあるのでしょう。しかし、これらが一方的かつ表面的な見方であることは、星の数ほどある関連書籍や映像をちょっと調べればすぐ理解できます。

 まず、シドの神格化についてですが、彼を、体制への反抗、既成概念の破壊といった一般的に言われるパンク・ロック・ムーブメントにおける精神姿勢の体現者と捉えている方が、作者以外にもいまだに多くいることは事実です。
 しかし、当時のロンドンにおけるパンク・ロック・ムーブメントに関わった多くの人間の証言から、彼がライフスタイルや音楽あるいは文化的表現者として何らかの信念を持っていたことを見出すことは全くできません。むしろ当事者の多くの発言からは、一部の策略家や関係者(マルコム・マクラーレンやヴィヴィアン・ウエストウッド等)に踊らされ、流され、ついにはハード・ドラッグに手を出し、その過剰摂取によって死んでいったかわいそうな無知な若者と見たほうが常識的に考えて自然です(ただし、個人的には、人間としてあるいはベーシストとしては最低な人間ですが、シンガーとしてはある種の資質を持っていたと考えていますし、決して嫌いなわけではないです)。

 また、ナンシーとの関係ですが、指摘している方がいらっしゃるように、おそらく2人の関係を美化した映画「シド&ナンシー」あたりに影響を受けたのでしょう。
 しかし、この映画が当時のロンドンの状況と、2人の関係性をを正しく表していないことは、多くの当事者たちの発言から明確です。例えばジョン・ライドン(ジョニー・ロットン)は、インタビュー等でこの映画で描かれたパンク・ロック・ムーブメントの描写と、2人の関係の美化について厳しく批判し、「この映画で評価できるのは、シドを演じたゲイリー・オールドマンの演技だけ」と述べています。
 彼らは、覚せい剤(ヘロイン)によって結ばれ、覚せい剤によって直接的あるいは間接的に死んでいった、残念な人たちでしかないのです。また、ナンシーの死後、シドが別の女性と深い関係を持っていること等から、2人の愛情の深さも大いに疑問です。

 もっとも、薬物と暴力にまみれ、薬物の影響から、ところかまわず嘔吐、失禁、意味不明な発言を繰り返し、まともな社会生活さえ送れないような男女を、ちゃんと認識した上で、それでも「カッコいい」と思っているのであれば、これ以上言うことはありませんが。

 

ナイスレビュー: 4

[投稿:2008-10-02 19:06:44] [修正:2008-10-02 19:06:44] [このレビューのURL]