「何某何」さんのページ

総レビュー数: 20レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年11月11日

9点 月ノ光

花輪和一がその独特な、乾いて飄々とした境地を見い出す前に、描かれたこの初期作品群は、

極めて沈鬱で
極めて陰気で
極めて不吉で
極めて醜く
極めて憎たらしく
極めて惨たらしく
極めて救いがない

その後の作品のような、痛快さ、幽玄さ、荘厳さ、お笑い要素、哲学的要素、仏教的側面などまったく見当たらない。
ただひたすら作者個人の背負った根深い怨念がどこまでも書き出されているだけ。
それでいてその短編作品達のどれもが、ひとつの物語として見事に成立しているのだから不思議なものだ。
心の奥底の憎悪を漫画に託しつつも、そんな自身をどこか冷めた目で見ている自分がいたからこそできたことなのだろう。

だから、一度でも世界を激しく憎んだことのある人は、是非この作品に手をつけるべきだ。
ただし、善良で純粋な人間には絶対に見せてはいけない。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-11-17 12:10:39] [修正:2009-11-18 00:46:29] [このレビューのURL]

どこまでも不条理で理不尽で、残酷でグロテスクで、奇妙で難解で、無邪気でノスタルジックで、寂寥感と孤独感を覚える漫画。
誰にも(おそらく夫にも)理解できず、解釈解説分析の一切不可能な作品だ

それもそのはず、これは作者の内的な世界をそのまま描き出しただけの、いわゆる心象風景なのだから
そこには読者への狙いもこめられたメッセージも全く存在せず、
見えているものをただ、子供そのものの感覚で表現しているだけ。
この漫画はまさにアウトサイダーアートのようだ。

それゆえに読んでいると、
触れるものすべてを傷つけ、
触れるもののすべてで傷ついてしまうような
繊細過ぎてトゲだらけで誰も寄せ付けないような作者の心を背後に感じ、
何とも言えない痛みを感じてしまう。

結局ねこぢるは、外の世界へ出て行くことを拒んだかのように、
31歳で自殺してしまった。
自分だけの世界に沈んでゆくために自ら命を絶ったのであろうか?
そこに深入りしていく気にはなれない。

こんな漫画を読んでも正常な気持ちでは笑うことなど絶対にできない。
だから、自分の心が異常だと思っているような人は是非読むべき作品だ。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2009-11-15 13:02:13] [修正:2009-11-15 13:05:03] [このレビューのURL]

なぜ主人公の身にここまでの不幸が降りかかってくるのか、全く見当がつかず理解も不能で納得もできない。
其れも其の筈、彼はただ運命の巡り合わせの徹底的な悪さによって、ひたすら堕ちに堕ちてゆくだけなのだから。

此れは小公女や母をたずねて三千里のように最後は努力が報われる話ではない。
フランダースの犬やマッチ売りの少女のよう死後にようやく救われる悲劇ですらない。

掃き溜めのような現実世界で、残虐で冷淡で人間臭い人達に翻弄されながら、
どこまでも必死に生きようとし、それでも起こるのは醜いことだけと云う、
幻想を剥ぎ取ったむき出しの現実をさらに俗悪にしたような惨たらし過ぎる物語だ。

当然読後感は最悪。
ゲンナリするだけ。

でも、そんな気分にならずにはいられないような何ともいえない泥臭い魅力が、
此の作品には確かにあり、
こんな作品を読まずにはいられないような悲惨で愚かしい現実と事実が、
我々の住む此の世界には沢山ある。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2009-11-12 10:12:56] [修正:2009-11-12 10:16:39] [このレビューのURL]