「小嘘騙り」さんのページ

総レビュー数: 4レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年09月19日

[ネタバレあり]

ラスト近く、竹本が買い物をするはぐみを見ているシーンが秀逸。
青春時代を終えて旅立つ若者の、寂寞感とか清涼感とかいったものをよく表現していると思う。

大ヒットした本作だが、いろいろ特色があるマンガだ。

まず、数多くの登場人物がそれぞれのエピソードを持っていて、またそれを各登場人物の視点を上手く切り替えながらつなげている。
一つ一つのエピソードでも十分なボリュームがあって、しかもそれを積み重ねるようにつなげているので、読者はそれぞれの登場人物に感情移入しながら飽きることなく読めるようにできていると思う。

もうひとつは、とても綿密に取材をして書いているということ。
竹本の自転車旅行とか、はぐみの入院とか、細部が細かく書かれていて感心する。(トンネルの中ではトラックがすぐそばを通っていくとか、自転車をこぐと食べ物がエネルギーになることを実感するとか、書物だけでなくきっと経験者に話を聞いたりしてると思う。)

三つ目に、森田というキャラクターの存在。
この人のエピソードだけ視点が一人称でなく三人称で、話にリアリティがない。他の登場人物のエピソードがリアルに書かれているのと比べてはっきりと違いがある。
これは、この人は(作中で実際そう言われているように)王子様キャラとして用意されているからだと思う。
明るくて、お調子者で、ちょっと天然で、ありあまる才能を持っている(しかも美形)、こんな人が身近にいたら楽しいだろうし、王子様なのだから現実感はなくて当たり前なのだ。
このキャラのおかげでせっかくのリアリティが損なわれているともいえるが、反面このキャラがいなかったらどうだろうか。ただの地味な青春マンガになってしまわないだろうか。良作だけど知る人ぞ知る、みたいな。
少女マンガとしてヒットするのに、森田は不可欠な王子様キャラだったのである。
他にも、少女マンガ的な悪乗りの部分があって、苦手な人にはつらいと思うがでもしょうがない。少女マンガなんだもの。

そして一番感心するのは、こういったことはきっと全て計算づくで書かれているのだろうということ。
いい作品を書いて、きっちりヒットさせた作者の手腕に感心する。

ただ、残念なのは「才能を持つもの同士の惹かれあい」みたいなテーマはあまり消化できていないということ。
はぐみの方はそのへんが直接的に描かれていないし、森田のほうは半分冗談のようにして描かれているので(アカデミー賞?とか)、この二人に突出した美術の才能があるということがあんまりピンとこない。
次回作ではきっとその辺を掘り下げるんじゃないかな、と勝手に期待している。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2008-04-20 16:25:05] [修正:2008-04-20 16:25:05] [このレビューのURL]

不思議な話を集めた短編集。

似た印象を受ける漫画作品に杉浦日向子氏の「百物語」があるが、「百物語」が主に江戸時代の奇談集に着想を得ているのに対し本作品は作者自身の奇想をよりどころとしている。
歴史資料という枠組みの中で作者が自分のイメージを表現している「百物語」とフリースタイルで自由に作者が空想を書き綴っている本作品を例えると短歌と現代詩のような関係だと思う。

何より注目すべきは表現力の高さ。
高い画力と構成力によって、読者は自然に作者のパーソナルな奇想を共有し、体験することができる。
まるで他人の頭の中を訪問しているような楽しさがある。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-09-19 20:49:35] [修正:2007-09-19 20:52:39] [このレビューのURL]

7点 魔女

魔女をテーマにした連作短編集。

同じ作者の「はなしっぱなし」はストーリー性は薄く詩に近い印象を受けるが、本作品にはかなりしっかりとしたストーリーがある。
相変わらず高い表現力と豊かな発想が骨太なストーリーの中で活かされており、読みごたえがある。


「はなしっぱなし」より読者を選ばないので誰にでもお薦めできる。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-09-19 20:50:28] [修正:2007-09-19 20:50:28] [このレビューのURL]

9点 寄生獣

テーマ性とエンターテイメント性を兼ね備えた、まさに傑作といっていい作品。

賞賛すべき点は多いが、僕が本作品で特徴的だと思うのはそのリアリズム描写である。
本作品では人名を除き固有名詞がほとんど出てこない。また、絵としても現代日本ならどこにでもあるような街並みや学校などの風景が淡々と描写され、読者はその具体性が希薄な部分に自分の身近な風景を重ね合わせることによって作品のメッセージをリアルに受け取ることになる。

また、登場人物の感情の流れの描写も説明を省いたリアルさがあり、作品の中に引き込まれる。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-09-19 20:47:39] [修正:2007-09-19 20:48:16] [このレビューのURL]